1204.若葉入りポーション試作(13)
「う~ん。
中々厳しいな」
四分の一に割った飴型継続的回復薬を口に入れた隆一は、顔をしかめつつ飴を舌の裏に押し込んで何とかできないか、試してみた。
多少は味が薄くなるが、やはり強烈に苦甘い味の違和感は消えない。
「これを長時間口に入れておくというのはかなりの苦行ですね。
迷宮で敵に接敵する前に口に入れておくのは躊躇うと思います」
エフゲルトがちょっと情けない顔をしながら言った。
不味い物を食べるのに多少は慣れていても、それを飴という形で口の中でずっと保持するというのには慣れていないようだ。
まあ、隆一だって慣れてはいないが。
地球でだったら好みに合わない飴だったらさっさとティッシュに吐き出すか、飲み込むかしていた。
回復薬として口の中で保持しておかなければならないというのはあまり経験がない。
「辛口にして誤魔化すか、ミントみたいなすっきり系の草を混ぜてみるか、あとは子供用コーヒーみたいに牛乳を足してみたらマイルドにならないか、試してみよう」
苦味は味覚の一部で、辛みは痛覚の一種だとどこかで聞いた気がするから、違う刺激をぶつければ苦味が気にならなくなるかも?
もしくは、同じ味覚として酢でも混ぜてみるのもありかも知れないが……イマイチ苦くて不味いものに『酸っぱい』を足して美味しくなる結果は想像できない。
という事で、エフゲルトに少量の胡椒とミントとお酢とついでに塩を台所から入手してもらう事にした。
「本当にこれを飴に入れるんですか?」
自分が貰って来た調味料を微妙な目つきで見ながらエフゲルトが尋ねた。
「まあ、実験だよ。
全然ダメだったら二度と試さないけど、味って意外な結果が出ることもある……かも知れないだろ?
試してみないと」
隆一はあまり創造的な料理をしたことがないので何をどうしたら美味しくなるかとか苦い味がごまかせるかは知らないので、試してみる必要がある。
そういえば、何か味覚を騙すフルーツがあるというのをどこかで読んだことがある気もするが……それに関しては詳しく覚えていないし、こちらの世界に存在するかも不明なので、諦めた方がいいだろう。
というか、飴に果汁を足してみるのはありかも?
酢を足すよりは甘酸っぱい果汁を足す方がまだマシな気はする。
という事で、実験室に夜中のおやつ用においてあるリンゴも切って一部すりおろしてみた。ついでに一切れ齧り、エフゲルトにもリンゴを一切れ渡す。
「さて。
これらを舐めるのか……」
色々と出来上がった試作品を見ながら思わず隆一は溜め息を吐いた。
勢いでついつい全種類の調味料を使って色々と試作品を作ってしまったが、これを試すのは自分だというのをうっかり失念していた。
この際、少量を口に入れて、味わった後は丸呑みしよう。
飴型継続的回復薬の過剰摂取が何か問題のある副作用を起こすかの確認になるかもだし。
取り敢えず、口に入れる前に一通り鑑定していく。
食べ合わせで腹痛を起こすような食材もあるのだ。
うっかり回復薬のつもりで提供した飴が腹痛や嘔吐感の原因になるようでは困る。
一つ一つ鑑定しつつ、エフゲルトにメモを取らせた。
「へぇぇ、塩って回復量をちょっと減らすんですね」
最初に鑑定した塩入り飴型継続的回復薬の鑑定結果を聞いたエフゲルトがちょっと驚いたように目を丸くした。
「意外だな。
塩分は摂取しすぎると体に悪いんだが……回復薬の効果を微量なりとも減らすとは、確かに意外だな。
だが、劇的に味が良くなるなら微量の影響だったら無視できるかも?」
味が悪いままだったら完全にお蔵入りだが、試してみないことには分からない。
溜め息をつきつつ、小さく割った欠片を口に投げ込む。
苦い。
そしてしょっぱい。
全然お互いを打ち消していない。
しかも塩を入れ過ぎたらしくてしょっぱくて喉が渇きそうだ。
というか、回復量が減ったのって塩を入れ過ぎて体に害があると鑑定されたのかも知れない。
まあ、どちらにせよしょっぱさは苦さを相殺できていないので、塩入りは無しだろう。
「全然ダメだな」
ちょっと不健康そうで飲み込みたくもなかったので、飴をシンクに吐き出してうがいをした隆一がエフゲルトに伝える。
「自分も試食しましょうか?」
エフゲルトが及び腰ながらも言い出た。
「いや、回復量が下がるし味は良くなっていないしで、完全に候補としてあり得ないから無理に食べなくていいよ。
もう少しましなのが出てきてから、試してくれ」
まだまだ試作品が嫌になるほどあるのだし。
ちょっと交代に試していこう。
不味いのを我慢せずに不味いと言えと命じれば、遠慮して『なんとか食べられなくもないです』と言われるのは避けられるだろう。
流石にこれだけ不味いのを全部自分一人で試食するのは隆一としても避けたい。
アリスナに味付けに関してはアドバイスを貰うべきだったかもw




