1203.若葉入りポーション試作(12)
「ちなみにこれってどんな味なんでしょうね?」
回復薬や継続的回復薬や回復薬改、及びそれらから作った飴がずらりと並ぶ作業台の上を見ながら、エフゲルトがふと首を傾げて呟いた。
「確かに?」
隆一も目の前のビーカーやシャーレに取り敢えず集めてある飴を見ながら腕を組んで考えこむ。
色々と試行錯誤し、それなりに実用レベルな効果のある飴や継続的回復薬も作れた。
が。
効果に関しては鑑定でしか確認しておらず、まだ実際に使ってみてはいない。
今までの回復薬は傷に掛ける使用法が多かったから、味は度外視されていた。
病気の治療をする際に提供される薬は内服薬が多いが、その際は味が悪くても我慢してもらうしかないと効果優先で味は度外視しているのだろう。
しかし。ある意味、健康で苦い薬なんぞ殆ど飲んでこなかったと思われる探索者に苦いポーションを飲めと言っても嫌がられそうだから、内服する継続的回復薬の味はそれなりに重要かもしれない。
しかも、飴だったら口の中にどれだけ長くキープできるかが効果と使い勝手を大きく左右するのだ。
あまりにも不味くてついつい飲み込んでしまうような味だったら困る。
噛まずに丸呑みした場合、噛み砕いて飲み込むよりは効果の継続時間が多少長引くかも知れないが、そのために大きな飴を丸呑みしようとして喉につっかえて窒息しては本末転倒だし。
「ちょっとまずは一口飲んでみるか」
継続的回復薬をスポイトで少量吸出し、口の中に垂らす。
「にが!!!」
考えてみたら、料理として辛いものは『ちょっと辛い』から『激烈に辛い』まで色々と食べた経験があった隆一だが、苦いに関しては『ちょっと苦い』以上に苦い料理なんて食べた記憶はない。
精々ゴーヤ程度だが、あれだってのたうつほどに苦くはない。
知り合いが、慢性的な疾患を患った猫に漢方薬を飲ませようとしたが激烈に苦いせいで最初に一回飲ませた後はそれを持っていたり台所で準備していると頑として近づいてすらくれないと嘆いていたことがあるので、漢方薬なんかだったらもっと激烈に苦い味もあったのかも知れないが、隆一は健康だったので漢方薬なんて飲んだこともない。
結論として。
継続的回復薬は今まで隆一が経験したことがないぐらい苦い。
病気の際に必要だからという事で薬として飲むのだったら何とか我慢できるかもしれないが、怪我をする前の予防用に飲むのは絶対に嫌だ。
「めっちゃ苦いんだが、エフゲルトだったら我慢できると思うか?」
スポイトに少量吸い取り、エフゲルトの方へ近づく。
「え、いや、今健康ですし……」
エフゲルトが逃げようと後ずさるが、ぐいっと近づき、顎を持ち上げて口の中に垂らす。
「うわ、ゲホッ!」
苦さに驚いたのか、エフゲルトが咽た。
「ダメか?」
下町出身で色々と苦労してきたエフゲルトなら、この苦さも我慢できるかと期待したのだが。
探索者だって貧乏な環境から這い上がってきた人間は多いのだから、エフゲルトが我慢できるなら売れるかと隆一的には思ったのだが、ダメらしい。
「いやまあ、どうしてもってことになったら飲みますが、好んで飲みたくはないですね、これ」
顔をしかめながらエフゲルトが答え、手元にあったお茶の残りにざばっと砂糖を入れて適当に混ぜたものを一気に口の中へ流し込んだ。
普段は遠慮して砂糖を殆ど使わないエフゲルトなのだが、苦さが堪えたらしい。
まあ、さっきまで飴作りに大量に使っていたのでちょっと感性が麻痺したのかも知れない。
「砂糖を入れた飴だったらマシなのか、苦甘いと更に酷い味になるのか……」
目の前の飴を見ながら隆一が思わず苦悩した。
飲み込めば一瞬で終わる液体と違い、飴は口の中で舐めていなければならず、苦しみが長く続くのだ。
さっきの苦さやそれが更に不味くなったものを長時間口に残るかもと考えるとかなり嫌だ。
「ヴェルタンさんにでも試してもらうとか?
戦闘のプロなんですし。継続的な回復手段としてこの飴を口の中に保持できるか、聞いてみる為にもやはり戦闘職の方にまず試してもらうべきでは?」
エフゲルトがそっと他の被験者を使えと唆してくる。
「まあ、最終的には戦闘職の人間に試してもらう必要はあるが……どのくらい不味いのか、自分で体験しておかないことには我慢しろと言い聞かせるのも難しいし、どの程度の効果を犠牲にしてでも味を修正するかの判断も出来ないからなぁ」
一瞬の苦さを我慢して飲み込めば済む薬だったら錠剤に固めて蜂蜜でコーティングするなどといった手段があるが、口の中で飴として舐めていけないとなるとそんな表面だけの味補正では足りない。
ちゃんと修正するためには自分で試しながら色々試行錯誤する必要がある。
「よし!
これを四分の一に切って試そう」
小さくすれば、我慢できないほど不味くて飲み込むにしても無駄が減る。
よく分からない液体を飲み込むのって怖いですしね〜




