1200.若葉入りポーション試作(9)
「取り敢えず、まずは液体のまま保管容器に入れておくのと、飴にするのと、グミにするので三分の一ずつに分けてみよう」
大量にビーカーを実験台の下の引き出しから取り出しながら隆一が言った。
作る際の温度の違いで飴やグミにした際の効果にも違いが出る可能性もゼロではないから、効果が一番良かった弱火な35度で抽出した継続的回復薬だけでなく、他のも全部飴・グミにしてみる。
特に想定外な結果が無くても、試作品が沢山ある方が色んな人に試してもらいやすいし。
「こんなに砂糖を使うんですか??」
隆一に言われて持ってきた、大量の砂糖をちょっと引いた目で見ながらエフゲルトが尋ねる。
「菓子っていうのは食べる方からは想像もつかないほど大量に砂糖とかバターとかを使っているらしいよ。
まあ、エフゲルトはまだちょっとやせ過ぎだから、砂糖の量なんぞ気にする必要はないだろうが」
いや、考えてみたら体の成長が終わってから5キロ?5%?体重が増えると糖尿病にかかるリスクがぐっと高くなるという話を読んだ気がする。
この場合、元々が痩せ過ぎだったエフゲルトなんかはどうなのだろうか?
普通の健康な成人男性の体重になるのは問題ないと思うが、下手をしたらそれだけで5キロ増ぐらいになりそうだ。
まあ、鑑定で体の状態を定期的に確認すれば大丈夫だろうし、基礎能力値を上げればきっと糖尿病リスクも多少は減るだろう。
「そういえば、エフゲルトは最近迷宮に行っているのか?」
義肢を作った際に行くと言っていた気がするが。
「はい、5日おきの休養日に警備部の方で迷宮に行く予定の人とか、実家の知り合いとかと行っています。
最近は大分と筋力も増えてきたんですよ!」
嬉し気にエフゲルトが応じる。
「……5日おきの休養日って他の日に俺からこき使われているから休むための日なんだが。
考えてみたら、俺が迷宮に行っている間は家でやらなきゃいけない作業もそれほどないだろう?
俺が迷宮に行っている日の午前中はエフゲルトも迷宮に行ったらどうだ」
隆一が提案する。
以前は色々な試作品の耐久性テストを下町の神殿でやるのの手配とか結果の取りまとめとかで忙しかったと思うが、最近はそういうテストも減ったし、必要があれば手配するのを出来る人間も増えている筈。
「いえ、ですがこちらでの整理や在庫管理など、色々とやることはありますから」
エフゲルトが遠慮する。
「まあ、無理強いはしないが。
休養日はデートとか趣味に使うべきだし、体力アップは職務の一環だと考えて俺が迷宮に行っている時にエフゲルトも別途迷宮に行くようにしておいてくれ」
デートに行くから平日に迷宮に行きます!とは言い出しにくそうだが。
そこら辺はアリスナあたりにでも目を光らせておいて貰って、デートに誘うような相手と出会ったっぽい雰囲気があったら再度注意喚起してくれるよう頼んでおこう。
「まあ、それはさておき。
まずは砂糖を溶かそう」
昨晩ちょっと実験してみたところ、錬金術を使えば砂糖と素材を直接加工して飴の形にすることも可能なのだが、少しでも加熱して自然に溶かして水分を抽出しつつ加工することで飴にする方が味わいが良かった印象だった。
という事で、ポーションのサンプルを30度程度まで再度温め、砂糖を流し込んで混ぜて溶かす。普通の水でも砂糖はある程度は溶けるので、錬金術を使ったら30度であっさりどちらも溶けて消えた。
「これが飴になるんですかぁ」
エフゲルトが不思議そうに黄緑色の液体を見つめる。
砂糖を溶かしても全く色が変わっていないので、実感がないのだろう。
一応鑑定してみる。
『砂糖入り継続的回復薬《リジェネ薬》タイプBQ52:BQE211(通称:トレント)#A3の薬効成分を魔力水に抽出した薬効系ポーション。服用した場合、5%程度の軽度組織損傷に対して回復効果が20分程度続く。3%の体力回復効果あり』
「おや。
砂糖を入れると体力の回復効果も発生するのか。
まあ、考えてみたら食事を食べれば体力が回復するんだし、当然か」
というか、食事だってそういう視点を考えながら鑑定したら体力回復効果があるだろう。
さて、これから水分を抜いて飴にしたらどうなるか。
ついでに飴を舐めずにかみ砕いて飲み込んだらどうなるかとか、鑑定で分かると良いのだが。
料理を鑑定できたら面白いかも。
『不味い』『デリシャス!』『飲み込めれば体に良い』とか出てきたりw




