1199.若葉入りポーション試作(8)
「さて。ちょっとこの若葉から抽出するタイミングを何通りか試してみようか」
5つのビーカーに2枚分ずつ細切れにした若葉と魔力水を入れ、横に並べる。
左端から順に1~5と番号を振っていく。
「(1)は中火で泡がビーカーに発生し始めた時点(40〜50度)に抽出を始める。
(2)は中火で泡が大きくなってきたぐらいな状態(50〜60度)になったら抽出開始。
(3)は弱火で温度が35度になったら抽出開始。
(4)は弱火で泡がビーカーに発生し始めた時点に抽出開始。
(5)は弱火で泡が徐々に底から離れるぐらいな状態になったら抽出開始という感じでやっていって、生成物の効果に違いがあるか確認してみよう」
薬草を使った回復薬はビーカーの底に泡が出始めた時点ぐらいでの抽出が一番効果が高くなると教わって、実際に隆一もそう作って出来上がった回復薬を鑑定した時に大体想定通りの効果が記されている。
だが、トレント苗の若葉だったら、魔物の素材だからもっと温度が高い必要があるかも知れないし、反対に苗の若葉だからもっとデリケートな可能性もある。
という事で、色々と試してみて損はないだろう。
「私も一部抽出しますか?
リュウイチ殿と抽出結果に多少の差が出るかも知れませんが」
エフゲルトがちょっと困った顔で尋ねてきた。
最近、隆一が一応の為に迷宮に持ち込む回復薬や隆一邸の警備員用の回復薬はエフゲルトが生成しているのだが、確かに隆一とでは精度や魔力の籠め方に違いがあるかも知れない。
「確かに違う人間がやったら効果が違う可能性があるな。
考えてみたら、医療特化の錬金術師である俺の魔力は薬を作るのに特効がある可能性もあるし」
何故か継続的回復薬は%表示でその効果を詳細鑑定で見て取れたが、普通の回復薬は集中して鑑定しても精々『劣、普通、良、優』程度の違いしか出てこないので、エフゲルトと隆一が作った回復薬の微妙な差は鑑定しても分からない。だが、違いはありそうだ。
「じゃあ、取り敢えず最初の実験は俺が自分で全部やるよ」
ちょっと面倒だが。
隆一は自分で決めたとおりの条件で5種類の継続的回復薬を作り、終わったところで鑑定してみた。
「苗の若葉の方が薬草よりデリケートだったか」
ちょっと意外なことに、弱火で35度での抽出が一番効果が高く、10%の回復との事だった。
とは言え、継続時間は変わらなかったが。
が、10%で20分となると200%の回復なので、ゆっくりな10%の回復でも問題ない程度の負傷だったらこちらの方がお得と言えば得である。
「ついでに飴やグミにしたらどうなるかも確認してみるか」
高い温度で抽出する方が回復%が落ちる結果だったので、砂糖やゼラチンを入れて水分を沸騰させて固めるのはダメだろう。
錬金術で固めるとなると、かなり高くつく甘味になるが……元々の継続的回復薬の液体自体が16階の素材を使った錬金術の産物なのだ。
この際、高くなるのは気にすべきではないだろう。
「ちょっと台所から砂糖とゼラチンをもらってきてくれるか?」
「了解です」
一応飴やグミにする際に投入すべき量は調べてある。
聞いてみたものの、隆一的にはこちらの世界でもグミがあるのがちょっと意外だったが。
飴だとガリガリ噛んで飲み込んでしまう人が多いらしく、グミの方がまだもう少し長持ちするからと開発されたらしい。
取り敢えず、エフゲルトが戻って来るまでにもう一度薬草を使った継続的回復薬の生成を試す事にした。
今回は、泡が出てくる程度まで薬草を入れた魔力水を加熱し、泡が出てきたところで火を弱めて急いで薬効成分を抽出してから35度まで温度が下がってきたところでトレント苗の若葉を入れて抽出してみたらどうなるか、実験してみることにした。
「あれ、色がちょっと違いますね。
それは何ですか?」
何度か温度調整に失敗しつつ、やっと想定通りに試作品が出来上がったところでちょうど戻ってきたエフゲルトが透き通った濃い目な黄緑色の液体を見て尋ねる。
「薬草を含めて作ってみた試作品だ。
鑑定」
『回復薬改(トレント若葉入り)タイプBMQ612:BMS145(通称:薬草)#A3とBQE211(通称:トレント)#A3を合わせて作成した薬物系ポーション。飲んだ場合に初期の回復効果に加え、5%程度の軽度組織損傷に対して回復効果が15分程度続く』
「お?
ちょっとは良くなったな。
この初期の回復効果が外傷に効いてくれるなら良いが、食道や口の中しか効果がないとしたら微妙なところだな」
薬草を使うことで原材料費は安くなるが、生成プロセスに必要とされるコントロールの細やかさが上がるので必要とされる技術レベルも上がりそうだ。
中々微妙に悩ましい変化だ。
細かいコントロールが出来る錬金術師の人件費と素材料、どっちが安いか微妙なところでしょうねぇ。




