1198.若葉入りポーション試作（7）

　16階のトレント苗は全てリポップしていた。

　ちなみに最初に刈り尽くして調べた下草っぽい雑草の一部はリポップしていなかった。リポップしていない下草は正式な迷宮の一部では無く、勝手に生えていた文字通り雑草だったらしい。

　そう考えると、トレント苗はエルダートレント（中）とセットになった迷宮のラインナップの一部なようだ。

　つまり、16階は食肉イチゴとネルク草、タルキ草及びエルダートレント（中）ではなく、食肉イチゴとネルク草、タルキ草及び『エルダートレント（中）+トレントの苗』だったのだ。何年経っても育たない、生物としては微妙な苗だが。

　上の層の胡桃や栗が毎日木を伐採してリポップさせると味が落ちたと言うデヴリン達の経験と同じように、苗を毎日刈り取ってリポップさせると薬効が落ちるかは今後要検討と言うところだが、今日は昨日残した分と根から掘り起こした苗、及び地面から10センチ程度で伐った苗とを全部地面から10センチで刈り取り、どのサンプルかをしっかりメモして隆一は持ち帰った。

　回復草と魔力草とトレント苗だけを狙っていたので今日は昼食前には採取は終わり、ギルドの食堂でランチを食べて解散した。

　で。

「随分と沢山ありますね」

　三つに分けて積まれた苗を見て、エフゲルトが目を丸くしていた。

「エルダートレント（中）の側に生えているトレント苗の若葉に回復効果があるのがわかってね。

　色々と実験する為にガッツリ集めてきた」

　まずはどれも同じ条件で若葉だけの継続的回復薬(レジェネ薬)にしたらどうなるか確認しようと二枚ずつ若葉を毟って刻み、ビーカーに入れながら隆一が答える。

「エルダートレント（中）にそんなおまけがあったんですねぇ」

　エフゲルトが魔力水を保存庫から出しながら応じる。

「詳細鑑定しても製薬する際に混ぜると良い素材が特に出てこないことを考えると、この若葉を使った回復薬の製薬の知識は広まっていない様なんだ。初代がラインアップを要請した時に意図して頼んだと言うよりは、ダンジョンマスターの親切サービスなのかもな。

　考えてみたら、エルダートレント（中）はやたら硬くて伐り倒すのは大変だが、根元で活動するだけな対象に対する攻撃は16階な事を考えるとかなり緩い気がするし」

　9階のトレント（大）の攻撃の方が激しかった気がする。

　ダンジョンマスターが人間の為の存在であるとは限らないが、王都迷宮のダンジョンマスターはそれなりに頑張る人間には親切なのかもしれない。

　下手をしたら大陸が出来上がってからずっと放置されていた迷宮をやっと訪れる探索者が現れ、それが中々の凄腕で比較的短期間で攻略に成功したのだ。その上、中々よく考えられた資源型ラインアップへの変更をリクエストしたとなると、感心してオマケぐらいこっそりつけてくれても不思議はないのかも知れない。

　のちに王都になった場所にあった迷宮がいつぐらいに発生したのかは不明だが。

　人間が住んでいない場所にある迷宮というのはひたすら存在するだけで暇だろうから、考えてみたらヴァサール辺境伯は大歓迎だったのかも。

　それはさておき。

　昨晩と同じように刻んだ若葉を魔力水の中に入れて加熱し、泡がビーカーの底に現れ始めた時点で薬効部分を抽出して火を消す。

　同じ手続きで（１）昨日触らなかった苗の若葉、（２）昨日根から掘り起こした苗の若葉及び（３）昨日地面から10センチのところで切った苗の若葉の継続的回復薬(レジェネ薬)を作る。

「似たような感じになりましたね。

　実際には素材は何が違うんですか？」

『抜かず』『根っ子』『10センチ』と書いてある素材のメモを見ながらエフゲルトが尋ねる。

「ずっとリポップしなかったと思われる苗が1番、昨日根から掘り起こして今日リポップしていたのが2番、昨日地面から10センチのところで切りとった苗の上部が復活していたのが3番だな。

　鑑定」

　鑑定しながら隆一が答える。

『継続的回復薬《リジェネ薬》タイプBQ52：BQE211（通称：トレント）#A3の薬効成分を魔力水に抽出した薬効系ポーション。服用した場合、5％程度の軽度組織損傷に対して回復効果が20分程度続く』

『継続的回復薬《リジェネ薬》タイプBQ52：BQE211（通称：トレント）#A3の薬効成分を魔力水に抽出した薬効系ポーション。服用した場合、4.8％程度の軽度組織損傷に対して回復効果が20分程度続く』

『継続的回復薬《リジェネ薬》タイプBQ52：BQE211（通称：トレント）#A3の薬効成分を魔力水に抽出した薬効系ポーション。服用した場合、4.9％程度の軽度組織損傷に対して回復効果が20分程度続く』

「微妙な差ですね」

　隆一が描きだした詳細鑑定の結果を見ながらエフゲルトがコメントした。

「考えてみたら、一分間の間に怪我の5％が治るのか、20分間かけて怪我の5％治るのかで、0.1％の差も大分と違うよな。流石に毎秒5%回復を20分と言うのは無いだろうが。

　というか、1分間で怪我の５％が治るとなったら、20分で完全に治るのか。

　まあ、回復薬《ポーション》だって軽い怪我だったらぶっかけるだけで完全に治るんだから、100％の治療効果はあっても不思議はないか」

　その場合、前日に根から掘り起こしてリポップさせた苗の若葉から作った継続的回復薬(リジェネ薬)だと怪我の5％近くが治らずに残るという事になるが……まあほぼ誤差の範囲と言っていいかも知れない。

　取り敢えず、根を掘り起こさずに、地面から10センチ程度の所で切って採取してこいと命じればより無駄がなく効果の高い薬を作れるというところなのだろう。