1197.若葉入りポーション試作(6)
「あ、16階に行く前に11階に寄って回復草と魔力草をちょっと採取したいんだが、良いかな?」
迷宮前で落ち合った護衛役の二人に隆一が頼んだ。
「おう。
勿論構わんが」
デヴリンが少し驚いたように頷く。
「何か既にトレント苗の若葉に関して実験して分かったことでもあるのか?
ちなみに今朝見てみたところ、昨日毟った若葉は生え戻っていなかったが枯れ始めている様子はなかったよ」
ダルディールが言った。
迷宮の中に入り、転移門へ歩き始めた隆一がダルディールの言葉に眉を顰めた。
「トレントの苗でも、迷宮の外だと葉がリポップと同じ速度では生えないのか。
これで16階の苗が全部リポップしているようだったら、地上での栽培はあまり期待しない方が良いかもだな。
ちなみに、昨晩実験してみたらあまり回復効果が満足できるものにならなかったから、回復草や魔力草を足したら何か変わらないか、実験してみようと思っているんだ」
最初の質問に関して答える。
若葉を詳細鑑定しても特にどの素材と混ぜると何に効くと言った答えが出ないと言うことは、過去にトレント苗の若葉を回復用のポーションに使った人物が居なかったのかも知れない。どの程度の知識が世界に蓄積されれば鑑定時にデータとして出てくるのか不明なので、個人ベースではやっていた人物が居たのかもだが。
肝心の若葉に関しては、16階まで下りるというのは手間だし、エルダートレント(中)の蔓を撃退しながら採取しなければならないとなるとある程度以上の技量が必要になるので採取依頼の費用も高くなるが、素材がなければ成果物も作れないのだ。
地上で葉がリポップしないのだったら、需要に応じて高くつこうと16階から採取することになりそうだ。
まあ、どの程度の回復量を見込めるか、それを摂取しやすい形に出来るかにもよるだろうが。
飴だけでなく、グミなんかの形も試してみたい。
ゼラチンで固める方がまだ飴よりは高温にならずに作れそうな気もしないでもないが、そこら辺は色々と試してみなければならない。
飴にするにしても、多分砂糖を溶かした液体の水分が飛べばいいだけなのだから、温めるのではなく水分を分離するような形で乾燥させるのもありかも知れない。
大部分の水分を分離で抜き取り、最後のちょっとだけを加熱で済ますとか、もしくは錬金のスキルを使って飴やグミにすることも可能かも知れない。
……これに関してはちょっと錬金術ギルドで確認してみたら良いかも知れない。
元々、地球の伝承なんかでは錬金術は台所で発達した料理からの派生技術という話もあるのだ。
女性の錬金術師なんかだったら料理に似たような形の錬金術の使い方も知っている可能性はありそうだ。
料理なんぞやったこともないジジイだったヴァダスは以前それに関してちらっと聞いた時は『知らん!』としか言っていなかったが。
「なるほど?
ちなみに実験ではどんな感じだったんだ?」
デヴリンが興味津々に尋ねてきた。
「トレント苗の若葉だけで作ると、飲んだら軽度組織損傷に対して5%の回復効果が20分続く液体が出来た。
薬草と混ぜたのだと、現時点では3%で10分か1%で20分っていうのが最大の効果だったな」
色々と薬草と若葉を入れるタイミングや温度、割合などを変えてみたのだが、中々思わしい結果にはならなかった。
なのでポーションの薬効を上げる効果のある回復草や魔力草を混ぜてみようかと考えたのだ。
注意を払えば魔物を撃退せずに11階で採取できる回復草か魔力草を足すことで効果を増強できれば、16階の苗だけで作るよりは安上がりになるだろう。
「ある程度の実験が終わったら神殿の製薬部に投げてあっちに色々と実験させたら良いんじゃないか?
素材面での確認作業をリュウイチがやっておけば、細かい作り方とか分量調整の研究はあっちが実験室でちみちみと試行錯誤できるだろ」
デヴリンが指摘する。
「……確かに?
一応錬金術を使った飴やグミ化だけ俺がやっておく方がいいだろうが。昨日根っこから引き抜いてリポップした苗と、地面から10センチで伐採してリポップした苗と、昨日は伐採せずに残しておいた苗との薬効比較をしたら、あとは素材を集めてあっちに渡すだけでもいいかも?」
回復草と魔力草を使った効果の方も一応調べておくが、大雑把なテストが終わったら、最終的な微調整による効果のギリギリな最適化に関しては、あちらに任せればいいか。
そうなったらアーシャの同僚を使った治験も神殿の製薬部の方へ行ってもらうか。
面倒な作業は人に投げよう!




