1195.若葉入りポーション試作(4)
「アーシャ達って鍛錬で擦り傷とか痣とかを毎日負ってるのか?」
イチゴのショートケーキで釣ったアーシャにケーキを切り分けながら隆一が尋ねた。
16階のトレントの苗を1本残して根こそぎゲットした後、アーシャの方に使いを出して、良かったら帰りにお茶とケーキを楽しみに来ないかと誘ったら、早速来てくれたのだ。
明日でも多分ケーキは大丈夫だと知らせておいたのだが、帰り道だからという事で問題なく少し早めに帰路に就いて現れたらしい。
「そりゃあ勿論。
まあ、装備点検や王都外部の走り込みなんかの時は事故が起きない限り怪我もないが」
切り分けられたショートケーキと、更にまだ残っているホールケーキの残りを目を輝かして見ながらアーシャが答えた。
「だったら何人かに継続的回復薬の服薬実験に付き合ってもらいたいのだが。軽い怪我を定期的に負う上にそれなりに注意深い知り合いを何人か、紹介してもらえないか?」
探索者に頼んでも良いのだが、探索者というのは怪我をしたら収入源に直結なので、注意深いタイプは出来る限り怪我を避ける。
しょっちゅう怪我をするようなタイプは自分の怪我もいつしたのか、どの程度のものだったのかすらあやふやにしか把握していないタイプが多くなるので、被験者としてあまり向かないのだ。
その点、それなりにハードな鍛錬で軽微な怪我を常時負うような騎士の方が継続的回復薬のテスターに向いているだろう。
アーシャが少し首を傾げた。
「痣とか軽い切り傷や捻挫程度で良いのか?
私も参加するが、複数必要なんだな?」
「飲み薬だから、どの程度の怪我に効くのかを徐々に確かめていきたいから常時訓練で怪我を負う騎士に試してもらって、回復の継続時間とか、どの程度の怪我まで効果あるのか等々を確認してもらいたいところだな。
アーシャに関しては……手伝ってもらえたら有難いが、下手をすると顔の傷跡が治る可能性もゼロではないぞ?」
一応、回復師が回復を掛けても治らなかったらしいが、内服する継続的回復型な薬がどういう効果があるかは不明だ。
古傷が治ったとか、痛むようになった関節が治ったというような効果があったら嬉しいところだが、アーシャにとっては顔の怪我が無くなるのは困るだろう。
「ふむ。
まあ、顔の怪我に関してはしっかり見張っておいて、薄くなりかけたら辞めるようにするよ。
最近は仮面の下を見せてくれと言ってくる礼儀知らずも減ったしな」
にっこり笑ってケーキをフォークで切り込みながらアーシャが応じる。
「おいおい、女性の顔の怪我を隠している仮面を外して見せろなんて言う人間が居るのか???」
顔の傷跡なんていうデリケートな物を隠すための仮面を外せなんて、無神経にもほどがあるだろうに。
「私の美貌が失われたのなんて信じたくない!!というお花畑な令嬢どもと、そんな令嬢どもから私が逃れたがっていたのを知っている管理職の人間たちが怪我からの復帰直後はちょくちょく言ってきた。
まあ、第二騎士団に戻ってそういう連中と顔を合わせることも減ったから、今となっては外せと命じられることも殆どなくなったがな」
クリームたっぷりなイチゴとスポンジを口に放り込み、うっとりと味わってからアーシャが答えた。
流石、ポリコレなんぞ存在しない階級社会。無神経さは想像を絶する。
まあ、ポリコレが煩い世界だったら美人だからって本人が嫌がるのに近衛になって貴族の令嬢相手にゴマを擦って親から予算をゲットしろなんて言わないか。
いや、『ゴマを擦って予算をゲットしろ』は日本でもそれとなく命じられそうか。流石に面と向かって命じたのがばれたら炎上ものだから、行間を読め的な命令になるだろうが。
「理想としては飴型にして長時間服用できる形にしたいと思っているが、飴の形に出来るかどうかは不明だし、どんな精製方法が一番効果が上がるかも分からないから、試作品が出来るまで数日かかると思う。その間にそれなりに怪我を負うのを厭わずにがっつり鍛錬で頑張るタイプで、ちゃんと自分の怪我を認識して治療効果も答えられる人間を数人見つけておいてくれると助かる」
これから数日は実験漬けな毎日になり、明日の朝迷宮でリポップ状態とリポップした苗の品質チェックだけしたら暫くは迷宮に行かない予定だ。
ある程度軽い怪我での効果を確かめたら、もっと重体な怪我を負うような場面での効果も確かめたいが……こちらはどうやって被験者を見つけるか、ちょっと要相談かも知れない。
皺やシミ、脱毛とかに効くようだったらめっちゃ需要がありそうw




