1194.若葉入りポーション試作(3)
「氷矢!」
目の前のエルダートレント(中)の最後の蔓を伐り飛ばして、隆一はトレントの顔っぽい造形の位置から割り出した苗がある筈の位置へ進み、下草をどける。
「お、あった。
これってマジでエルダートレント(中)と苗ってセットで生える生き物なのか、それとも単にダンジョンマスターが森の構造を適当にコピペしたお陰で苗とエルダートレント(中)の位置関係が毎回同じなのか、知りたいところだなぁ」
苗の下から10センチ程度の所で切り、水と魔石をいれた保存袋に突っ込みながら隆一が呟いた。
「こぴぺ?
そんなことが出来るのかな?」
ダルディールが隆一の言葉に少し首を傾げる。
「どんな感じにダンジョンマスターが迷宮の構造をデザインするのか知らないが、単に『エルダートレント(中)20本、普通の木40本、イチゴ10本』って感じに決めるだけだと、そういうのが全部種類ごとに纏まっていそうじゃないか?
適度にばらけさせるためのプログラムがあるか、ダンジョンマスターがやっているかにせよ、繰り返し起こるパターンがあるみたいだからプログラム上のコピペか、ダンジョンマスターの手作業のコピペか、どちらかがあるんじゃないかな?」
イチゴの位置関係やエルダートレント(中)分布も完全に16階の中で均一ではないので、適当にダンジョンマスターがコピペしている方がプログラムでの分布よりも可能性が高そうな気がする隆一だった。
コンピューターやAI的なプログラムがあるとも思えないし。
とは言え、何らかの形で迷宮の中身を半自動的にリポップさせていると思われる。
プログラム的な機能はどこかにあるのだろう。
「……ダンジョンマスターが手作業でリポップとか手配していたら、コボルトを殺しまくった俺って嫌われてるかも」
殺したら神に天罰を下される招かれ人なので、隆一のせいでストレスをためたとしてもダンジョンマスターがイレギュラーな魔物を発生させて隆一に報復することはないだろうが。
多分。
とは言え、デヴリンやダルディールを害することで隆一が来にくくする可能性はあるので、一応油断せずに常に安全マージンは取るようにしておくべきだろう。
「迷宮内で何をしようと特別にダンジョンマスターや迷宮の魔物に狙われるという現象は確認されていないらしいから、大丈夫なんじゃないか?」
ダルディールが応じる。
「まあ、何百年か何千年もやっているんだから、ちょっとやそっとのことで腹を立てたりしないとは思うが……ダンジョンマスターが居ることが確認できている、中型の迷宮ってどれだっけ?」
大型は無理にしても、中型だったら攻略してダンジョンマスターと話を出来ないだろうか。
「中型迷宮を攻略して下級エリクサーを入手するのは厳密な利害調整の末に既に色々と決まっているから、割り込んでダンジョンマスターと話し合いをするのは難しいと思う。
大型迷宮は計画的な攻略そのものが難しいから果たせるならば割り込みという問題はないが……」
言い難そうにダルディールが応じる。
次のエルダートレント(中)を探しに動き出しながら隆一は思わずため息を吐いた。
「そういえば、考えてみたら腕さえよければ中型迷宮を攻略して下級エリクサーを入手できるんだったらデヴリンがとっくのとうにやっているよな。
他国でもそうなのか?」
ヴァサール王国ほど迷宮を完全に管理・利用している国はないと聞いたが。
「というか、他国こそ中型迷宮しか内部のラインアップ管理が出来ていないから、下手をしたら攻略できる強さの探索者が近づくだけで暗殺されかねない」
ダルディールが指摘する。
「そっか。
確かに魔物が多くて安全に農業も鉱山利用も難しい世界だったら、中身を選べる中型迷宮なんて、国の存続にかかわるぐらい重要な資産だな。
下手をしたら戦争をする前に仮想敵国の中型迷宮を攻略して資源を出なくさせるなんて言う嫌がらせだって十分あり得るんだ、下手に強い探索者が近づいたら国防の一環として警告して追い払うか、殺すのもありか」
中々探索者というのも魔物相手だけでなく危険な職業なようだ。
「さて。
次は根ごと掘り起こしてリポップに何か違いがでるか、確認してみよう」
次のエルダートレント(中)の所に辿り着いた隆一はスコップを手に取って近づいた。
テストすべきことはいくらでもありそうだ。
デヴリンがパーティ崩壊後に王都迷宮で頑張っていたのって考えてみたら違和感がありますよね




