1193.若葉入りポーション試作(2)
「リジェネ効果のある飴ってそれなりに需要があるかな?」
昼食を食べ終わり、迷宮に戻りながら隆一は尋ねた。
地球のゲームではリジェネ効果は継続的に長時間戦うようなボス戦でしか使わなかった。こちらの世界ではボス戦なんてあまりないが、代わりに現実の脅威として大繁殖やその前哨的な魔物の大掛かりな間引きというような長期戦はある。
そうなると戦っている間に継続的に回復できるリジェネ効果付きの飴は瓶に入った一発勝負な回復薬や、回復師の元に行って傷を癒してもらうよりも便利そうな気がしないでもない。
「軍としては確実にあるだろうな。
探索者だって、回復師の居ないパーティだったら是非欲しいだろうし、それこそ迷宮を攻略するような高位ランクな探索者だったらギリギリの攻略をする際に飴でちょこちょこ回復できるんだったら金貨を払ってでも欲しがるぞ」
デヴリンが応じた。
「へぇぇ。ちゃんとした現実的な回復量のある飴になるかどうかが重要だろうが、軍や高位ランクな探索者が欲しがるなら、16階で定期的に採取してもらう形になっても十分採算が取れそうだな」
となると、収穫できる時期と頻度が限られる地上での栽培でよりも16階への定期的な採取依頼を出す形の方が現実的かも知れない。
「どのくらい地上で育つか、育つシーズンに何度採取できるか、どの程度育った苗の若葉に回復効果があるかなどの見極めも必要だろうが、大量に必要なのだったら地上で春から夏だけにかけてでも大量に収穫できるように苗を大々的に栽培するというのもありかも知れないぞ?」
ダルディールが指摘する。
確かに、飴だったらそれなりに保管できるかもしれないし、毎年春に大量に採取するのもありか。
16階の苗が毎日リポップするとしたって、数はそれなりに限られているし採るのにかかる手間もそれなりだから、地上で農作物っぽく育てるのも経済的にペイするし需要を満たすのにもいいかも知れない。
「よし。
午後を全部使って何本苗を採取できるか、試してみよう。
出来るだけ多く集めたいから、デヴリンは別行動で苗を集めてくれないか?」
転移門のところで列に並びながら隆一がお守り役の二人に頼む。
どう考えても、隆一がちみちみエルダートレント(中)の蔓を一本ずつ切り落として苗を探していたら16階の苗全部は取り切れないだろう。
実験用の素材を出来るだけ集めたいし、どの程度の数を最大で集められるかを確認するためにも、一度に採取できる最大値を知りたい。
「リュウイチから完全に離れて別なところまで行くのは無しだが、リュウイチ達に近づく人間の気配が感じられる範囲ぐらいなら離れても良いか」
ちょっと渋い顔をしつつも、デヴリンが頷いた。
どうやら16階は魔物の脅威がない代わりに人間からの襲撃を警戒しているらしい。
「午後は食肉イチゴに近づかずに、ひたすら苗を集めるのに集中するよ。
俺が採取している周辺の苗を全部デヴリンが先に採り終わった場合はその後にちょっと遠めに移動して、出来るだけ効率よく16階の苗を全部採取できるよう頑張ろう」
そこそこ変則的に動いている上にデヴリンとダルディールに守られている隆一を攫おうとするような人間がたまたま今日16階に来ている可能性はそれ程高くはないと思うが、油断していてうっかり攫われては面倒だし、デヴリンとダルディールたちにも迷惑だろう。
先ほど上に行ってイチゴを売ったことで16階にいることを知った人間は確かにいるだろうし、用心するに越したことはない。
「じゃあ、まずはこっちから行こうか」
16階に降りてきて、隆一は先ほど向かったのと反対の方へ向かった。
魔力感知に集中してエルダートレント(中)を探しながらゆっくりと足を進める。
「これかな?」
見つけたエルダートレント(中)の攻撃範囲ギリギリと思われるところで立ち止まって二人に確認する。
「おう。
じゃあ、俺は周囲を回るような感じに苗を探してくれば良いんだな?
ちなみに地面から10センチぐらいのところでスパッと切って持ってくれば良いんだな? 水につけておくとか、何かやるべきか?」
デヴリンが尋ねる。
「取り敢えず保存袋に水を入れて、それに茎の部分を差し入れる感じにしてみてくれるか?」
運搬具は隆一の所にあるので、魔石入りの水を入れてみるのは隆一の方で試してみて、若葉の状態を後で確認したら適切な採取方法も見極められるだろう。
「はいよ~」
合意に手を挙げて軽く振りながらデヴリンが離れていった。
さて。
16階のエルダートレント(中)全部に苗があるのか、何本あるか。
色々と試す事が増えてきた。
『今度はエルダートレントの苗?!
とは言え、折角提供したのに誰も気付かなかったんだよなぁ。やっと活用して貰えそうと喜ぶべきか?』
複雑な心境なダンジョンマスターがいたり?




