1192.若葉入りポーション試作
「じゃあ、この苗をよろしく。
取り敢えずは普通の植木程度に水をやってどうなるか観察する程度で良いから。
あと、ちょっとポーションの実験をしたいから調合室を暫く使わせてもらえるかな?」
トレントの苗栽培を頼み終えた隆一は、立ち上がりながらスフィーナに頼んだ。
ギルドでは緊急時に薬師や錬金術師が迷宮から採ってきた薬草と魔力水をその場で使って回復薬を作れるように、小さいながらも調合室がある。
自前の調合設備を持たない駆け出し錬金術師や薬師が自分で薬草と魔力水を採ってきて回復薬を作ってその場でギルドに売るのにも活用出来るようになっているので、取り敢えずちゃちゃっと薬草と魔力水を買って回復薬を作る際にトレントの苗の若葉を追加したらどんな効果が出るか、試してみたい。
「どうぞ」
スフィーナがあっさり応じる。
どうやら今日は特に誰かが調合室を借りてはいないようだ。
買取部門に寄って薬草と魔力水を入手した隆一はそのまま調合室に入った。
ちょっとした実験程度なので、簡易版で良いだろう。
という事で、二つの調合用のガラス容器に同量の適当に千切った薬草と魔力水を入れ、一つにだけ細かく千切った若葉を足し、ゆっくり加熱器で温度を上げていく。
小さくガラス容器の底に泡が付いたところで火を止め、薬効部分を抽出。
魔力を籠めながら軽く混ぜたら回復薬の出来上がりだ。
「鑑定」
『回復薬:薬物系ポーション。表面的な外傷に作用して治癒する』
『回復薬改(トレント若葉入り):薬物系ポーション。表面的な外傷に作用して治癒する。飲んだ場合は多少の継続的な治癒効果が10分程度続く』
「おや。
トレントの若葉を入れるとちょっとリジェネ効果がつくらしいな。
飲まなきゃいけないらしいから外傷にどう役に立つのか不明だが」
考えてみたら、今までリジェネ系の薬や術は聞いたことがない。まあ、継続的な治癒効果よりもその場で直した方が早いだろうし、『多少』という程度の継続的な効果ではボス戦などで事前に飲んでおいてもあまり役に立たない可能性が高そうだ。
定量ではなく定率の治療効果だったらそれでも役に立つかもしれないが……10分程度では、実際に怪我が蓄積してリジェネ効果が欲しくなるようなボス戦では有効時間が足りないだろう。
「リジェネ効果? それは何なんだ?」
一緒についてきていたダルディールがちょっと首を傾げながら尋ねる。
「う~ん、デヴリンにも一緒に相談したいから、昼食を食べながら話そう」
昼食後にでもちょっと実験しても良いし。
ささっと調合室を片付けて2階の食堂へ上がる。
デヴリンが端の方のテーブルを確保してくれていたので、隆一達は定番のシチューを取ってそこに向かった。
「で? どうなった?」
デヴリンがパンをちぎりながら尋ねる。
「トレントの苗の栽培テストは一応スフィーナが請け負ってくれた。
まあ、上手くいくかは不明だし、考えてみたらリポップしない苗の若葉なんて量が少なすぎて、地上で育てても意味がない可能性が高いかも知れないが。
そんでもって苗の若葉に関してだが……回復薬を作る際に入れてみたら、リジェネ効果が付いた」
「継続回復効果? なんだそれ?」
デヴリンがちょっと首を傾げながら聞き返した。異世界言語理解で『リジェネ』という言葉は翻訳されたらしいが、馴染みがないようでイマイチ理解が及ばなかったらしい。
「飲んだり塗ったり術をかけたりした瞬間に回復するんじゃなくて、飲んだら10分間継続的に回復するっぽい?
飲むんだから外傷に対してどの程度効くのか微妙に不明だが」
体の内部に取り入れた薬が外傷に即効性があるというのはかなり疑問な気がする。
飲んで素晴らしい即効性があったら却って不気味だ。
「ふうん? 慢性胃炎で悩んでいる連中に喜ばれそうだな?」
デヴリンが指摘した。
「確かに?
だけど慢性胃炎だって回復師に頼めば治るんじゃないのか?」
というか、慢性胃炎というのは何らかの理由で胃液が過剰分泌されるのが原因な気がするから、回復師だろうがリジェネ効果のある回復薬だろうが、効果時間が過ぎたら元の木阿弥な気もするが。
「10分じゃああまり効果がないかもだが、30分とか1時間に延ばせたらかなり喜ばれるんじゃないか?
それこそ飴みたいな形にしてゆっくり舐めてその間中多少の治療効果があったりしたら大繁殖なんかに対処している時なんかにも良いかも?」
デヴリンが提案する。
「……タルニーナにでも、飴の作り方を聞いてみる」
リジェネ効果がある飴なら確かに色々と良さげな気がする。
飴ってうっかりガリガリ噛んで飲み込んじゃうんですけどね。




