1191.16階の素材(7)
「イチゴのショートケーキをお願いできるかな? ホールで一つ欲しい」
昼食時に地階へ上がった隆一は、まずはタルニーナの所に行った。
この後スフィーナを捕まえて『トレントの苗』を栽培できるか頼み、昼食を食べ終わったところで食休みを兼ねて一度薬草と魔力水をギルドの買取所から少量分けてもらい、トレントの苗の若葉を単純に足してみたらどの程度の効果があるか、試してみたい。
しっかりとした試行錯誤は家の実験室でやる予定だが、薬草から薬効部分を抽出する際についでに若葉も一緒に混ぜた程度でも効果がぐっと上がるならば、あの苗の需要がかなり高くなるのでもっと大量に素材を取っておきたい。
反対に多少は効果が出るが大したことがない程度だったら今日入手したサンプルだけでもいいだろう。
「イチゴのショートケーキですね。
問題ないですよ」
にっこりとタルニーナが応じた。たっぷりイチゴを持ってきたので、ホールで頼んだとなれば自分たちの取り分も多くなると嬉しい案件になったようだ。
「あ、俺も同じく」
デヴリンが後ろから頼む。
「私はイチゴを対価にイチゴを含めたフルーツのロールケーキをお願いしたいな」
ダルディールが後ろから付け加える。
いつの間にか、甘党が増えたようだ。
「はいはい。
最近はクリームの供給も安定しているので、問題ありませんよ~」
にこやかにタルニーナが答える。
ギルドの食堂や近所のカフェにも余ったスイーツ類を売るようになったので多めにクリームを入手しても困らなくなったことで、定期購入契約を結ぶことになって牧場側も牛を増やしたと聞いた。どうやらお陰でいつでもクリーム系のスイーツも問題なく作れるようになったようだ。
「じゃあ、午後の半ばくらいか早い目の夕方に戻ってくると思うから、頼む」
イチゴを取り敢えず全部渡し、余った分の冷蔵保存を頼んで隆一はスフィーナを探しにギルドの受付の方へ回った。
「スフィーナ。
ちょっとお願い事があるんだが、良いか?」
デヴリンに食堂の席取りを頼んで、隆一はスフィーナを捕まえた。
一応状況説明のためにダルディールも同行している。
「どうしました?」
何やら書類のチェックをしていたスフィーナがそれを引き出しにしまって直ぐに隆一の方に来た。
「ちょっとこれを、どこか裏の日当たりがまあまあな辺りで育てられないか、実験してくれないか?
トレントの苗らしいんだが、若葉に回復効果があると鑑定に出たんだ」
考えてみたら、回復効果があるからと回復薬に混ぜたらその効果がアップするとは書いてなかったが。
単に回復薬の代替素材でしかないなら、薬草入手の容易さを考えるとあまりこの苗の利点はない。
が、それこそ薬草と重複して回復効果を持たせられることが出来るなら、それはそれで需要があるだろう。値段にもよるかもだが。
「トレントの苗、ですか」
スフィーナが微妙な顔で隆一の手元にある苗を見やる。
「『苗』の『若葉』に回復効果があるらしいんで、動き出すようなサイズにまで育ったらもうそういう効果がない可能性も高い。まずは迷宮外で育てられるのか、育ててどの程度のサイズになるまで若葉に回復効果があるのか、若葉の回復効果自体がどの程度なのか、色々と調べる必要があると思うが……俺の家で栽培を試みるよりは迷宮の傍に位置するギルドの裏あたりでやる方が育つ可能性が高いし、何か問題が起きた際の即応能力も高いだろうとダルディールに言われたんだ」
「外で育てた場合は迷宮内の様に短期間でリポップしないから『若葉』の採取サイクルがずっと長くなって実用性がかなり下がる可能性もありそうだが、取り敢えずリュウイチの家で育ててみるよりはここの裏を使う方が安全だろう?」
ダルディールが後ろから付け足す。
「……トレントを個人宅の庭で育てるのはやめた方がいいでしょうね。
育つかどうかも微妙ですし。
取り敢えず、これを地面に植えて水を与えればいいんですね?
魔石でも一緒に埋めておいた方がいいのでしょうか?」
スフィーナが苗を受け取って尋ねる。
「変に大きく育ったら危険な気もするから、取り敢えずはそのまま植えて死なないかの確認を頼めるか?
有効性が確認出来たらそのまま育てても有効性が同レベルであるのか、魔石を一緒に埋める方がいいのか等々他の条件も調べていきたい」
あまり魔石の必要量が多い様だったら普通に16階で採取依頼を出した方が経済的な可能性も高い。
取り敢えず。
まずは育てられるかを試してもらおう。
ぐわっと一晩で大きく育ったらお笑いですね〜
そうはならないと思いますが




