1190.16階の素材(6)
「さて。
苗はあるかな?」
がさごそこと蔓を伐り飛ばしたエルダートレント(中)の根元の方を魔力が抜けて固くなって枝っぽくなった蔓を振り回して下草をかき分けながら隆一が探し回る。
先ほどのエルダートレント(中)の根元ではガンガン草を刈っていたので苗も見つけやすかったが、今回は草を刈らずに取り敢えずさっさと見つけようとしていると却って時間が掛っている。
ある意味、苗の葉だけが欲しいし、苗がリポップする可能性が高いのだからガンガン伐ってしまってもいいのかも知れない。とは言え、うっかり茎を切ると苗そのものを見つけにくくなる。
「あ、それじゃないか?」
傍についていたデヴリンが苗をなぎ払おうとしていた隆一の手を止めて指摘した。
「おお~。
ありがとう。
なんかこう、見つけにくいな。
取り敢えず、他のエルダートレント(中)の根元にも苗があるという事で、取り敢えずこれは切って持って帰って次回来るときに戻っているか、確認しよう」
ナイフを取り出して苗を下から20センチぐらいのところで若葉ごと切り取って手に取る。
「もう一本エルダートレント(中)の所に行って苗があるか探して、それで終わりにしよう」
全てのエルダートレント(中)の根元に苗があるとしたらそれはそれで採取対象が沢山あっていいともいえるが……元々大きく成木としてリポップする迷宮内のエルダートレント(中)に苗は必要ないことを考えると、中々不思議な生態である。
ついでに、エルダートレント(中)1本につき苗も1本だとするとまとめて採取という事が出来ないので集める効率もかなり悪くなりそうだ。
「……このエルダートレント(中)の苗は迷宮内では親木とセットになって生えているのかも知れないな。
下草は色々と違いがあるようだが、その苗の生えている場所はエルダートレント(中)との相対位置が前のと同じ気がする」
暫く口を噤んで周囲を見回していたダルディールが指摘した。
「そうなのか?
エルダートレント(中)向きが良く分からなかったから前のと今回のの相対的な位置関係がイマイチ把握できなかった」
隆一が目を細めて周囲を見回しながら言う。
顔の位置と攻撃してくる蔓の場所から把握すればいいのだろうか?
それを言うのだったら、次のエルダートレント(中)も同じ位置に蔓があるのか確認するべきだろう。
そんなことを考えながら魔力感知を広げ、次のエルダートレント(中)を探す。
「お。
先にもう少しいちご狩りをしていいか?」
歩いたせいか、近くの森の端の向こう側に食肉イチゴとそいつが展開している泉(消化液の)があるのが見つかった。
「おう。
イチゴはいくらあっても多すぎることはないからな。
ついでに採取したいならもっと集めようぜ」
デヴリンが嬉しそうに合意する。
「どうせリュウイチの希望に沿った探索なんだ。
イチゴ狩りも十分重要な作業の一つだろう」
ダルディールも重々しく頷く。
「ちなみに食肉イチゴを地面近くの茎の部分でバサッと伐ったら消化液の泉も消えるのか?」
幾らリポップするとは言え、バッサリ切られてしまったらその時点でイチゴは死んでいるように思えるが。
「イチゴの木を切り倒した時点で消化液の酸度が下がるって話だな。
そんでもってその場を離れて放置したらそのうち迷宮に吸収されて消える」
デヴリンが答えた。
なるほど。
生きた食肉イチゴは魔物として迷宮にとって生き物判定で吸収されないのが、植物側が死んだら異物扱いで消化液は迷宮に吸収されてしまうらしい。
「だったらバッサリ枝を根元から切って、泉から離れた場所へ引っ張ってイチゴの実を集めた方が良いのかも知れないな。うっかり泉に踏み込んだりしたら痛そうだし、靴もダメになってしまうだろう」
足止め用魔道具のボーラで絡めとってイチゴの木を引っ張るのもありかも知れない。
とは言え、ボーラは隆一の元を離れた時点で途切れているので引っ張るのにはちょっと向かないかも知れない。
「いや、そのまま生えている形で採取する方が味が濃厚になるらしいぜ?」
デヴリンが隆一の案を反対した。
どうやらお手軽にやると味が二流になってしまうらしい。
「しょうがない、きっちり足元に気を付けながら一粒一粒、根気よく集めるか」
味の良さは重要だ。
学術的研究よりも甘味に流れた回でしたw




