1187.16階の素材(3)
伐採されたトレントの周囲10メートルぐらいは他に魔物が居ないようなので、隆一は取り敢えず足元の植栽を手当たり次第に調べることにした。
まずは足元にあったひょろりとした細い若木?苗?を選ぶ。
「鑑定」
『トレントの苗:樹木タイプ魔物の苗。若葉に回復増加効果あり』
「あれ???
トレントは苗から増えるのか??」
思わず苗の前にしゃがみこみ、今度は詳細に鑑定しなおす。
『BQE211(通称:トレント)#A3:トレントの幼体。黄緑色な若葉を回復薬に加えるとその効果を増加させる』
念の為に比較対象として隣に転がっている切り倒されたエルダートレント(中)を鑑定する。
『BQE214(通称:エルダートレント(中)#F2:蜘蛛系魔物AREP168~256の糸袋内液体、蛇系魔物RZQ143~398の毒液、ゴーレム系魔物GDV105~215の躯体粉末に対する触媒効果が高い』
どうやらトレントとエルダートレントとエルダートレントの苗で個体名称(ID?)が微妙に違うらしい。
この苗を育て続けたら、そのうち『幼体』という名称が消えてID番号も変わるのだろうか?
黄緑色な状態だと若葉に回復薬の効果アップを期待できるみたいだが、これは苗状態の葉だったらいいのか、それともトレントでも若くて黄緑色な葉ならいいのか。
というか、トレントだって迷宮内だったら成長し終わった姿でぽんとリポップするのだ。
若葉というのが存在するのだろうか??
「トレントの苗があるんだが、これって育つんだと思うか??」
隆一がダルディールとデヴリンに尋ねる。
「トレントに苗があること自体が意外だな。
古い木が育って魔力が籠ったことでトレントに変異すると考えられていたから、苗の状態でトレント化はないと思っていた」
ダルディールがしゃがみこんで苗を見ながらコメントする。
「レッサートレントは??
あれだってひょろくて若い木だろ?」
基本的にレッサートレントがトレントに育ち、それが更に古くなるとエルダートレントになるのだと隆一的には思っていたのだが。
「いや、レッサートレントは栄養が乏しい土地で育ったヒョロヒョロな木がトレント化した時の呼び名だな。
迷宮は単にそれを生やしているだけで、レッサートレントに肥料を撒いて水をやっても大きくはならんが」
デヴリンが首を横に振る。
「……となると、この苗も育たない?」
というか、苗も常に同じ状態でリポップするなら回復薬の効果アップ素材としてそれなりに有用かも知れない。
それこそ筍と同じで、自然に増える苗だったら生える時期が決まっているし伐りすぎると大元の植栽が増えることも出来ずに素材そのものが枯渇しかねないが、苗が普通に毎日(?)リポップするなら素材としてガンガン利用できそうだ。
まあ、常にエルダートレント(中)の根本付近に生えるのだったらそれの採取がちょっとハードかも知れないが。
「よし、取り敢えずこれを根ごと持って帰って葉を回復薬に入れてみるのと共に、庭に植えたら葉が再び生えてきたりするのか、実験だ!」
危険な魔物を持ち帰るのは不可だが、一応スライムの飼育に関しては申請して許可をもらっているのだ。
この苗も死なずに生き残るのだったらちゃんと申請すればいいだろう。
「大丈夫なのか?
高級住宅地で突然トレントが巨大化して暴れたりしたら大騒ぎになるぞ?」
デヴリンが微妙そうな顔をして尋ねる。
「……死なないように多めに魔力を注ぎ込んで外で育つか試すつもりなんだが、トレントにそういうことをすると突然巨大化とかするのか?」
流石に人や家屋を傷つけられるほど強力な蔓を有するサイズまで育つにはそれなりに時間が掛ると思うのだが……トレントの発育というのはどの程度魔力と地面の栄養素に左右されるのだろうか?
「回復薬の効果アップを期待できるのだったら、確かに一々16階まで取りに来ないで来れたらありがたいから、まずは探索者ギルドの裏で実験してみよう。
うっかり育ちすぎそうになったらすぐに伐採できるし、迷宮の出口に近い方が魔素が濃くてこれが生き残れる可能性も高いかも知れない」
ダルディールが提案する。
「そうだな。
まずは上に持って行ってどの程度回復薬の効果が上がるか、実験してみようか」
効果アップが微々たるものだったら利用価値はあまりないし。
「その前に、ここら辺の残りの草も調べて、あとは最後に他のエルダートレント(中)の根元にもこの苗が生えているのか確認しつつ、それをどのくらい簡単に採取できるかもチェックしよう」
一々エルダートレント(中)を倒さないと採取できないとなるとこれの費用がぐっとあがりそうだ。
『子供が誘拐される〜?!』 by エルダートレント




