1186.16階の素材(2)
「エルダートレント(中)を伐るのは構わんが、どれを伐るか、見極めて指示を出すのはリュウイチがしてくれよ?」
斧を渡されたデヴリンがニヤニヤと笑いながら隆一に告げた。
「おう。
取り敢えず……それ、だろ?」
草原側に面している森をじっくり見まわし、魔力感知を集中させてエルダートレント(中)を探す。
近づいて弦で襲われたところを迎撃する事で見つけて頼むのもありと言えばありだが、隆一的にはちゃんとエルダートレント(中)を見極められるようになったと自分としても確認したい。
26階では見通しの悪い森の中で宝箱探しするつもりはないが、もしかしたら悪く大きな魔物が動きづらい森の中の方が守る側にとっては楽な可能性もなきにしもあらずだ。なので隆一本人による伐採は無理だとしても、ちゃんとトレントを事前察知するぐらいの能力は見せなければダメだろう。
「あたり!
ついでに、蔓を風矢で迎撃できるか、試してみるか?」
デヴリンが無造作に隆一の示した大木に近づき、斧を叩き込む。
「え、うわ、ちょっと待って」
慌てて隆一が魔力を練って風矢を放とうとするが、上からぴしりと下りてきた蔓を迎撃するのには間に合わなかった。
デヴリンも元より期待していなかったのか、あっさり斧をかざして斬撃で蔓を切り捨てた。
「斧でも斬撃って放てるんだ?」
次の蔓の動きを見出そうとエルダートレント(中)の可動部を見つける為に集中しながら思わず尋ねる。
「手でも出せるんだぜ?
斧だって当然出せる。
まあ、動きが遅くなるから大体攻撃の方向が分かっている相手にしか使いたくないがな」
デヴリンが再度斧を幹に叩き込みながら応じる。
先ほどの蔓から1メートルぐらい上のもう少し左に寄ったところにあった枝が突然柔らかくなり、振り下ろされた。
「風矢!」
今度は枝の状態が変わり始めたのが丁度目に入ったので迎撃が間に合った。
実際に戦闘状態になって集中してみると、トレントの蔓が枝としての擬態を解く際にちょっとした魔力の動きがある。
あれを感じ取れれば何とか迎撃に間に合わないでもない。
とは言え、出来れば先に蔓になる枝の目途をつけられている方が更にいいが。
エルダートレント(中)の枝を一本一本、その魔力の流れと大きさに注意を払いながら観察していく。
「おっと」
蔓になる枝を探すのに気を取られ過ぎて、隆一から反対側にある蔓が振り下ろされるのに気づかれず、デヴリンに切り飛ばされていた。
「ちなみに、デヴリンはどの枝が蔓になるってどうやって分かるんだ?」
更に集中して擬態を解く際の魔力をちゃんと感知出来る状態を保ちつつも擬態中の枝を見つけようと頑張りながら隆一が聞いた。
最初の蔓になった枝の少し上の枝が怪しい気がするのだが、あれなのだろうか?
動き出す前に攻撃して、外したり違ったりした場合には次の攻撃に魔力を練るのが間に合わなくなりそうな気がするから、先制攻撃はちょっとする自信がない。
「殺気だな」
デヴリンがガン!ガン!と幹に斧を叩きつけながら応じる。
擬態している余裕がないとなったのか、隆一が目をつけていた枝が魔力を放ちながら蔓に転じた。
「風矢!」
良い感じに動き出す前に当たり、根元から枝が吹き飛ばされて地面に落ちた。
「ちなみに、エルダートレント(中)になると根っこも動くぞ。
まあ、足を引っかけるとか絡みついて足止めする程度で、杭になって足を貫くほどの力はないが」
いつの間にか膨らんでいた根をまたぎながらデヴリンが反対側に移動し、切込みを更に入れる。
直径30センチはある、それなりに大きな木なのに既にかなりふらふらになってきている。
「もう少しこっちに下がっておこう」
ダルディールが隆一に少し下がるよう、声を掛けながら腕に触った。
木の倒れる方向はちゃんとコントロールしているらしいが、想定外なことが起きないように確実に倒れてこない方向に避難しておくのが探索上の常識らしい。
「おいしょ~!!」
最初に切込みを入れ始めた場所に戻り、更に斧を叩き込んでぎぎ~っと音がし始めた幹にデヴリンがごいん!と蹴りを入れる。
ギギギ~~~~!!
悲鳴モドキな音を立てながらエルダートレント(中)があっさり倒れた。
「エルダートレント(中)の蔓って一体につき4本なのか?」
今回はそれだけしか出てこなかったが。
「大体4本が多いが、絶対ではないから常に注意は払わないとダメだな。
蔓だけ警戒して足元を取られて転ぶと危険だから、根にも注意する必要があるが」
幹が倒れた衝撃?で盛り上がった根に斧で一撃を加えながらデヴリンが答えた。
「その最後のあがきっぽい根の動きって危険なのか?」
幹が本体ならば、切り倒された後の根の動きは最後のあがきであって特に危険性があるとは思えないが。
「蛇とかだって首を刎ねた後に断末魔の筋肉伸縮で巻き付いた腕や足の骨を折ることがあるんだぜ?
エルダートレント(中)の根も運が悪ければ似たようなことが起きうるし、植物なだけあって反応が遅れることがあるから、切り倒した後にそこら辺をうろつくなら根っこにも止めを刺しておく方が無難だな」
デヴリンが言った。
どうやら隆一がそこら辺の下草を見て回りたいと言っていたから安全対策を取ってくれたらしい。
「エルダートレント(中)の木材や根も持って帰るべきかな?」
枝を切り落として妖精の手をつければ何とか持って帰れなくはないが。
「まあ、他に持って帰るつもりがないならありかもだな。
取り敢えず、ここら辺周辺を見て回ってそのあとどうしたいか、相談しよう」
16階のエルダートレントとなればそれなりに需要はあるらしい。
さて。
森の下草に何かないか、探索だ。
いつの間にか素材をあまりもって帰らなくなった隆一……




