1184.次は
魔物の同一性確認に使う魔道具(実質魔石を使った魔物用の魔力認証の魔道具だが)の特許申請をザファードに任した隆一は申請が通ったらすぐに錬金術ギルドと神殿の製薬部門に持っていけるように準備はしたが、それで暫くは終わりという事で再度探索での鍛錬に頑張ることにした。
とは言え、先にまずは12階のレッドブルが同じ個体になるかどうかのチェックをしておきたいと、前回討伐したら同じ個体が二度連続でた場所でレッドブルを倒してみた。
「よし!
歯形が違う!」
気もそぞろに急いで歯形を取った隆一は、前回と違う形に拳を握って喜びの声を上げた。
「違うことがそれ程重要なのか?」
魔石を取り出して隆一に渡しながらデヴリンが首を傾げる。
「いやまあ、重要か否かと言ったらそれ程でもないが、レッドブルがどれも同じ個体が同じ場所でリポップするのに、ミノタウロス(小)が違うとなったらどうして同じような単体タイプの魔物が同じ形でリポップしないのか、気になるじゃないか。
そのために色々とまた魔物を倒しまくって調べるのも流石に気が引けるからな。
変なミステリーがない方が、心置きなく次に進める」
どうせ誰もさして気にしていないのだから、謎があろうと放置してもいいのだろうが。やはり隆一の中にある研究者の魂には仮説から外れる状況が気になってしまう。そうなるとちゃんと現象で説明できる仮説を再構築できるまで情報収集のために12階の魔物を虐殺しまくる羽目になりそうで、ちょっと微妙な心境だったのだ。
「まあ、気になる問題が解決できて良かったな。
次は14階の穴兎か?」
ダルディールが宥めるように隆一へ尋ねる。
「だな。
あの肉はいくら集めても気が付いたら無くなっているから、また集めておきたい。
その後は……16階でイチゴを集めて、ついでにちょっとあそこの階の素材を鑑定しまくりたい」
考えてみたら、今まで魔物の部位を鑑定して『薬に使える』という結果を蜘蛛系魔物の毒以外で見た記憶がない。
そうなると、さんざんコボルトを虐殺しまくった挙句に同一性確認の魔道具まで作ったのに、魔物の個体差が製薬の成功率に差が出るかもという話が全く現実と関係ない可能性が出てくる。
神殿の製薬部門へ植物性以外で薬に使われている素材に何があるかを聞きに行く際に何か手土産になるような新しい発見がないか、探してみたいと考えている隆一だった。
「まあ、知識に無駄はないって言うんだろ?
今使えなくても将来役に立つかもしれないんだし、コボルトを殺しまくったのもリュウイチの基礎能力値や戦闘技術の向上には役に立ったんだから、現時点で使える用途が無くても構わないんじゃないか?」
デヴリンが隆一を慰めるように言った。
「ほう?
随分と深いっぽいことを言っているじゃないか。
知識に無駄がないなんて、どこで聞いたセリフだ?」
ダルディールが茶化すようにデヴリンに尋ねた。
「学院で俺が赤点を取って歴史なんて無駄だ~~~!!!って補講で言うたびに毎回あの歴史教師に頭を叩かれながら言われた。
歴史は覚えてないが、あのセリフだけは記憶に残ったな」
デヴリンが答える。
「へぇ、こっちでも赤点とか補講なんてあるんだ?」
異世界にそんなものがあるとはちょっと想定外だ。
まあ、学校があるのだから、落ちこぼれを見分けるためのテストとそれに合格点をとれない生徒に対する救済措置があっても不思議はないが……異世界と赤点というのはなんとはなしに馴染まない。
魔術の勉強での試験で落第というのならまだしも、歴史となると更に微妙な感じだが、どの世界だって歴史から学ぶことが重要ではあるのだろう。
とは言え、考えてみたら地球の人類が歴史からどれほど学んでいるのかはかなり怪しい気もする隆一だったが。
戦国時代とか大航海時代とか程度の昔の歴史では社会と技術環境が違いすぎて現代にあまり当てはまらない気がするし、近代史で学ぶような大恐慌時代から第二次世界大戦前後の教訓もここ数年でそれを無視する政治家が多くなってきた様に思われる。
歴史の勉強は本当に役に立つのか。
検証のしようもないと言えばない気もするが、世襲制で国を動かすこちらの世界の貴族や王族が歴史からの教訓に関してどう考えているのか、ちょっと聞いてみたい気もする隆一だった。
最近のアメリカのお偉いさんは大恐慌を悪化させたと言われる関税を使った保護主義に傾倒している様ですが。
彼らは歴史の授業を受けたんでしょうかね?




