1183.同一か否か(10)
「氷槍!」
隆一の攻撃魔術がこちらへ突進してくるレッドブルに刺さる。
ちょっと左に寄ったが正面の胸から左前脚寄りのところに攻撃が当たり、上手く足を動かせなくなったレッドブルが倒れたことで隆一は落ち着いて止めをさせた。
「う~ん、やっぱ四本足で走ってくる連中の方が狙いを外しやすいな」
コボルトもミノタウロス(小)も二足歩行だったので胴体の真ん中から心臓付近へ狙いをつけやすかったのだが、四つ足で突進されると微妙な感じになる。
「まあ、更に鍛錬を重ねるんだな。
二足歩行タイプも多いから、四本足は諦めて足止め用魔道具を最初から使うと決めておくのも手かも知れないぞ?」
デヴリンがレッドブルに近づいて魔石を取り出しながら指摘する。
「そうだな。
……お?
こっちは歯形が合致した」
手慣れた手順でカパッと口をあけてインクを塗りたくり歯形を取った隆一は、その図形を見て飛行型運搬具に行って行きに倒したレッドブルの歯形と魔石を取り出して試作品で魔力線を確認した。
「ふむ。
同一体だな。
ミノタウロスよりもレッドブルの方が素材として使いやすいし、もう1、2度通りがかりにこの場所のレッドブルを倒して同じ個体がリポップするか、確認しよう」
隆一が提案する。
これで次回は違う個体だったら群れでなく単体でポップする魔物はいくつかのプロトタイプからランダムか順番に複製されるということになるから、ミノタウロス(小)の検証はやらなくてもいいだろう。
これで次回も同じ個体だった場合はレッドブルは毎回同じプロトタイプになるのにミノタウロス(小)は違うというまた別な状況になるので更に調べる必要が生じるかもしれないが……次にレッドブルを倒した時は違う個体になると期待しておこう。
リポップのプロトタイプに関するルールを知りたいと言えば知りたいが、あまり素材として需要がないミノタウロスを大量に倒したいとは思っていない。
まあ、コボルトだって殺してそのまま放置していたのだからミノタウロス(小)だけ別扱いする理由はないのだが、何とは無しに大きな魔物の素材をそのまま放置するのは良心が咎める。魔石は取り出すので陰と陽のバランス的にはあまり好ましく無いし。散々コボルトを虐殺して死骸を放置した身で今更何をというところではあるが。
「そういえば、レッドブルの角とかで魔力線は確認できそうか?」
ダルディールが尋ねる。
「ふむ。
ちょっと試してみるか」
隆一が先ほど倒したレッドブルの角を手に取り、魔力認証の試作品に載せてみた。
起動スイッチを入れてみたところ……一応反応したが、魔力線の動きがかなり少ない。
これでは魔石と同じ魔物から出てきた魔力線だとは分かりにくいだろう。
一応上下のブレの場所が同じなので同一個体だと判断できるかもだが、ブレの幅が大分と小さいので一見違う個体のように見える。
「微妙なところだね。新鮮だとどうなるかな?」
倒したばかりのレッドブルの方に戻り、デヴリンが解体を終えていたレッドブルの角を隆一が手に取って試作品に載せた。
「あ~、数時間で大分と魔力が抜けている感じなんだな。
これだと角では実用性があまりなさそうだ」
倒したばかりの魔物から切り離した直後の角と魔石はほぼ同じ魔力線の形を示しているが、行きに倒して飛行式運搬具に放り込んでいた角の魔力線は魔石と大分と違う。
「ふむ。
随分と魔力の減少が激しいな」
そう呟きながら、隆一は魔力線の出力結果と一緒に入れてあった魔石を取り出し、もう一度魔力線を出力させる。
こちらは殆ど変わっていない。
どうやら魔石の魔力は然程変わらないが、他の部位からは魔力がかなり速い段階で抜けていくようだ。
「まあ、錬金術や製薬において同一個体か否かがどのくらい重要になるかは不明だが、どうやら魔石以外での確認作業はほぼ無理なようだな」
希少で出来るだけ殺したくない魔物の素材が必要なんて場合以外なら、魔物を倒してから魔石を取り出して個体識別チェックをすればいいのだ。
だとしたら魔石を使うというのをスタンダードにした方が、変な誤解が生じなくていいだろう。
「さて。
魔物の個体認証が出来る魔道具をどこに報告すべきかな?」
錬金術ギルドに提出してもほぼ誰も読まない気がする隆一だった。
折角の研究結果なのだ。
誰かに読まれて活用してもらいたいところだが……製薬ギルドにでも提出すべきだろうか?
一応神殿とも共有するつもりなので、あちらの製薬部門のおっさんにちゃんと理解しておいてもらい、何かに役に立ちそうな時に活用してもらうよう頼んでおこうと考えた隆一だった。
同一個体かの確認用魔道具も大体目処がついたかな?




