1182.同一か否か(9)
「ちなみにその同一性テストって魔石を使わないとダメなのか?」
歯形が同じだった個体を横にどけ、残りのコボルトの歯形を確認し始めた隆一にダルディールが尋ねる。
デヴリンも時間節約のために歯形と魔石をセットで取ってくれているが、ダルディールは警戒のためにそばに立っているだけなのでちょっと暇らしい。
「一応新鮮な肉には反応するが……時間が経ったらどうかな?
後でミノタウロス(小)の角でも確認してみるよ」
どうせ肉や血は冷やして保存しないと腐る。そして冷やす魔道具を使うとそちらの魔石に魔力を上書きされるようなので、肉や血液の魔力線をちゃんと認識できるか測定したところであまり意味はないだろう。
角や爪だったら冷やす必要はないが、あれらがそこまで魔力を豊富に蓄積しているかはかなり怪しいところである。まあ、ダメだったら素材を取る際に魔石も一緒にとって検査用に同封しておけと指示すればいいだろう。
追加で4体ほど最初の群れと同じプロトタイプの個体が見つかったので、魔石を使って魔力線を比較したところ、どれも最初の群れの同一個体と魔力線と全く同じになった。
どうやら迷宮の魔物のプロトタイプは本当に完全に同じになるらしい。
人間だったら一卵性双子でもDNAは同じでも指紋は違うという話だが、どうやら魔力線は指紋よりもDNAに近いらしい。
そんなことを考えつつも、取り敢えず参考用にすべての歯形と魔石を飛行型運搬具に放り込み、隆一はぐっと伸びをして背中をそらした。
「さあ、メロンと桃だ!」
「オレンジも欲しいな」
デヴリンが付け加える。
「そういえば、オレンジジュースってもしかして13階まで探索者が採取に来たのを絞っているのか?」
そう考えるとかなり贅沢な飲み物という事になるが。
「まあ、貴族が見栄を張ってパーティなんかで出すのはそういうのもあるが、ゼルゲデルタ迷宮が比較的長持ちして輸送できる果物特化に近いから、そこで大量に集めて全国に輸送しているな。
葡萄も取れるからワインもあそこの町の名産物だが。
年に一度、飛行船を動かしてその年仕込んだワインが全国へ輸送されたんだが……今後は飛行具で個別に購入・輸送するようになるかもしれないな」
ダルディールが答える。
なるほど。
ちゃんとワイン用に葡萄をゲットする迷宮も確保してあるらしい。
幾ら馬車で揺らすとワインの味が劣化する可能性が高いとはいえ、軍部ですら緊急事態や戦争でなければ滅多に使わない飛行船をワインの輸送に使うとは、ちょっと笑えるが。
お偉いさんに好かれる商品の輸送というのはそれだけ融通を利かせて貰えるのだろう。
まあ、そうとでもしないと酒好きな探索者が無理をしてでも迷宮を再攻略して、何がなんでも葡萄を迷宮の産物にしようとする危険があるのかも知れない。
そんなことを話しながらガンガン果物を採取しまくり、飛行型運搬具の1段目が満載になったところで果物収穫を切り上げ、一行は12階に戻った。
「さて。
ミノタウロス(小)はリポップしたかな?」
先ほど倒したミノタウロスのテリトリーの場所へ足を進めながら隆一が呟く。
考えてみたら魔物のリポップのタイミングをそこまで気にしていなかったから覚えていない。
朝倒して帰りに居ない時もあれば居る時もあるという感じで、居ない場合は他の探索者が倒したのかリポップ前なのかも不明なので、あまり真剣に考えたことがなかったのだ。
「お。
いたな。
氷槍!」
魔力感知でミノタウロス(小)の魔力を見つけ、魔力を練りながら近づき攻撃魔術を叩き込む。
良い感じに一撃で倒せた。
「うんうん、大分と腕が上がってきたじゃないか。
コボルトの虐殺が攻撃の精度を上げる良い練習になったようだな」
デヴリンが満足そうに後ろから言った。
「確かに殺しに殺しまくったからなぁ。
実施練習ってやはり重要なんだな」
隆一邸の3階でそれなりに練習しても、実際に魔物と戦う際にはうっかり外したり微妙に強度が足りなかったりといった危うさがまだ残っていたのだが、ここのところのコボルト虐殺の繰り返しで大分と生きて襲い掛かってくる魔物を殺すのに慣れたようだ。
「さて。
歯形は……違うな」
どうやらリポップした場所に同じ個体が出てくるとは限らないらしい。
魔石を抉りだし、魔力線を確認するが、やはり当然のごとくそれも違っていた。
「今度はミノタウロスを虐殺しまくって単体タイプの魔物でも繰り返し同じのが出てくるか、確認するか?」
デヴリンが尋ねてきた。
「ううむ……微妙なところだな。
取り敢えずもう一体を倒して、そっちも違ったらこれから暫くは毎回12階を通ってこの2か所のミノタウロスを倒して同じプロトタイプが出てくるか、確認してみよう」
流石にフロア全部のミノタウロス(小)を虐殺して回る気はちょっと起きない隆一だった。
果物と14階の穴兎狩りのついでだと考えれば、多少の寄り道も問題ないだろう。
『ひ〜!?
今度は俺たち?!』 by ミノタウロス




