1180.同一か否か(7)
「今日はまたちょっとコボルトを倒したい。
そんでもって行きと帰りに同じ場所にリポップしたレッドブルとミノタウロス(小)を12階で倒しておきたいから、それもよろしく」
数日ぶりに迷宮に戻ってきた隆一が、デヴリンとダルディールに今日の探索予定を表明した。
「うん?
コボルトは終わって、また下の方へ進むんじゃなかったのか?」
デヴリンが少し首を傾げながら尋ねる。
「いや、そのつもりだったんだが。
折角迷宮内の魔物がいくつかのプロトタイプから複製されていると分かったんだから、倒した魔物が同じ個体かどうかを確認できる魔道具も作っておこうとちょっと思い立ったんだ。
で、その仮説確認と試作品のテストが必要になった訳だ」
隆一が飛行式運搬具に入れた試作品を手で指しながら説明する。
「同じ個体であるかどうかなんて、調べる必要があるのか?
興味深い現象だとは思うが」
ダルディールも首を傾げた。
「こう、作る素材と手法が確立しているのに成功率が低い薬や錬金術の生成物なんかは、もしかしたら素材として使われた魔物の個体差に左右されている可能性もあるだろ?
それを確認するためには、同じ個体かどうかを確認する手段が必要だ。なので取り敢えず素材に残る魔力の波動の痕跡や魔石でそこら辺を確認できないか、試そうと思ってね」
勿論生成の成功率には作業に関わる人間の腕とか、倒してからの魔物の素材の保存状態の良さとかも関係するだろうが、最高の状態で腕のいい錬金術師や薬師がやっても失敗する確率が下げられない場合……個体差のせいである可能性は十分ある。
まあ、ゲーム上の設定のように成功が確率で限られているような場合もあるかも知れないが。
流石にこの世界がそんな風にゲーム的だとは思いたくない隆一だった。
神に勝手にコピーされただけでも微妙な心境なのに、ゲーム的に確率を適用して神が面白楽しく観察しているような世界だったら更に不快である。
「なるほど?
もしかして、魔石の魔力ってコボルトの歯形のように、個体差があるのか?」
ダルディールが尋ねた。
「多分?
少なくとも人間の魔力に個体差があるのは金庫の鍵に魔力認証を使っていることからも既に知られている事実だろう?
穴兎の魔石で魔力認証的な感じに魔力の波動を書き出してみたところ、俺の実験室の引き出しに入っていた魔石はそれなりに違いがあったんだ。
同じのもあったが」
昨日は午後中かけて家にあった穴兎の魔石の魔力線をすべて出力したところ、かなり違いがあったものの幾つかは同じものがあった。
つまり穴兎にもプロトタイプがあり、同じプロトタイプだと魔力の波動も同じである可能性が高いと思われる。
「へぇぇ?
つまり、コボルトも歯形が同じだったら魔力の波動も同じかもってことか。
……なんかこう、人間でも同じ歯形や魔力の人間がいるかもと思うと複製の存在って気持ちが悪いな」
デヴリンがちょっと微妙な顔をしながら言った。
「もしもいつの日か、迷宮内で知的生命体に出会ったらマジで歯形や魔力認証で全員違うかどうか、確認してみるといいかも知れないな」
最下層にいる長生きしたドラゴンなんかは知性があると思われる行動をするという事もあるらしいが、それがリポップした存在と同じ魔力の波動を持つのか、興味深いが……ある意味知りたくない気もしないでもない情報になりそうだ。
ラノベに時折あるような、迷宮の奥深くで人間に弾圧されたエルフとかが住んでいるのが発覚したら……更にプロトタイプが存在するのかが気になるし、気持ちも悪い。
「まあ、それはさておき。
取り敢えず、まずは同じ場所でリポップした魔物が同じ存在なのかを確認するために12階のレッドブルとミノタウロス(小)を場所に注意を払いながら倒して歯形と魔石を幾つかの素材をとっておき、帰りにまた同じことをしたい。
コボルトに関してはいくつか群れを倒して同じ歯形の個体から魔石と素材を取って確認したいんだ」
同じ歯形なのに魔力線が違っていたら、それはそれで非常に興味深いことではあるが……ある意味、同じ個体だったら錬金術での成功率が上がるかもという考えも、魔石が違うのだったらダメじゃないかという流れになりそうな気もする。
どうなるか、是非とも確認したい隆一だった。
またコボルト虐殺の日が戻ってきた!




