1178.同一か否か(5)
「取り敢えず、現行の魔力認証の魔道具ではスライムを飼い主と誤認することはないようだ」
実験室から書斎に戻った隆一がそこにいた二人に実験結果を告げた。
「それは良かった。
スライムで誤魔化せるとなったら、死んだ人間の魔力認証が出来る可能性が出てくるかと心配になっていました」
ふぅっとダーシュが安堵の息を漏らした。
「まあ、暫く経ったらスライムの魔力が抜けると思うから、今のスライムの餌を迷宮産の魔石に変えてどのくらいの期間で魔力線が変わるかも確認しておくよ。
既存の魔力認証の魔道具全てで誤認証が起きないかどうかは不明だが、一応安物や高級品を何種類か買い集めておいて貰えるか?」
隆一が研究用に以前買ったのはそれなりにスペックの良い高級品だった。
安物だったらスライムで誤魔化せるとなるとそれはそれで問題ではある。
「そうですね。
安物はまだしも、高級品でそんな欠陥があると判明したらすぐに修正させる必要があるでしょう」
ザファードがちょっとうんざりした顔で言った。
「まあ、高級品の魔力認証の魔道具を使うような人間がスライムを育てることはあまりないと思うから、危険性があるとしたらせいぜい国の研究所あたりか?
何も言わないでおくのも良いと思うが、一応興味があるから確認だけしよう」
隆一が応じる。
パンドラの箱と同じで、下手に情報は漏らさない方がいい可能性は高い。
「……誓約契約で、この情報を漏らせないようにしましょう。
何かがあった時は、リュウイチ殿に当局側への連絡を頼むことになりますが、誓約魔術で縛る方が情報を漏らす危険性が少ないと思います」
引き出しから契約用の紙を取り出しながらザファードが言った。
「そうですね、それがいい。
誓約契約があればうっかり商業ギルドで誘導質問に引っ掛かったりも出来ないし」
ダーシュが大きく頷いた。
「二人だったら誘導質問なんぞに引っ掛からないと思うが、まあその方が気が楽になるならそうしよう。
俺も二人が生きているならばどちらかに相談しなければ外に話を漏らせないって形で制限をつけておいてくれ」
うっかり誘導尋問に引っ掛かる可能性は隆一にも十分ある。
流石に3人とも誰にも話せないとなるとそれは困るが、隆一だけ無制限に情報をたれ流せる状態にはしない方がいいだろう。
「そうですね」
隆一の言葉に頷きながらザファードがさらさらと誓約契約の文面を書き出し、3人で中身を確認してから魔力を流しながら署名する。
「それさておき。
結局、なんでこんな話になったんでしたっけ?」
誓約契約書をファイルにしまいながらザファードが尋ねる。
「……ああ、魔力認証の魔法陣を使って魔物が同一個体かどうかを簡単に確認できる道具を作ろうとしていて、冷凍庫に入れた素材の魔力線がほぼ同じになった上に、俺とエフゲルトが全然違うのに俺とスライムがかなり似ていたから色々と確認したくて、まずは人間の個体差をチェックしようと二人の魔力を確認しに来たんだ」
ザファードの質問にちょっと考えてから隆一が応じる。
スライムが自分の魔力ダブルになるかもなんていうちょっと想定外な現象を目の当たりにして、うっかり何をやっていたのか忘れるところだった。
「冷凍庫に入れると魔力の波動が同じになるんですか?
というか、魔物の魔力線なんて調べて意味があるんですか?」
ダーシュが尋ねる。
「騎士団まで巻き込んで何ヶ所かの迷宮でコボルトを虐殺しまくった結果、迷宮内の群れの個体が同じプロトタイプのコピーだと確認出来たところなんだ、
それを活用する方法として、特に精度が必要な素材が必要になった場合に同じ個体か否かを確認できる手段があったらいいかな?と思ってね」
肩を竦めながら隆一が答える。現時点ではそこまでの精度を魔物の素材に求めるような状況は無いのだが、いつかそうなった時に同じ個体か否かを確認できる手段があるのは良いことだろう。
多分。
コボルト: 『俺たちの犠牲は無駄じゃなかったんだ!?』




