1176.同一か否か(3)
「よっと」
隆一はガラスケースにいるスライムの一体からジェルっぽい部分をえぐり取り、シャーレに乗せた。
「そんでもう一度」
体の一部を抉られてぷるぷる震えているスライムが動いて他のと見分けがつかなくなる前に、別のスライムからジェルの部分を抉り、一部を赤に変えたシャーレにそれを乗せる。
「さて。
まずはこれで魔力認証の魔法陣が反応するかだな」
そう呟きながら準備しておいた魔法陣の上に最初のシャーレを乗せて起動した。
ほわんと魔法陣が光り、下に敷いてあった紙に波線のような模様が浮かび上がる。
これは魔力認証の魔法陣が機能しているかを確認するために隆一が足した新機能だった。元々、魔力の波動と言うのは複雑で強度や密度や属性のような特性もあるため、紙の上に線を引いて表せるような単純な情報ではない。だが部分的にでも可視化して手軽に比較しやするために、取り敢えず線が出る部分を4等分して各属性の強さと波動の様な情報を線グラフ的に表す魔法陣を作って足し込んだのだ。
少なくともこれに違いがあるならば魔力の波動が違うのは明らかなので、このレベルでの同一性が存在するかを確認するために読み取った魔力の波動の違いを拡大させる際についでに手を加えてみたのだ。
「少なくとも俺の魔力とはだいぶ違うな」
先に自分の手から魔力を流して映し出した隆一の魔力の波動を表す線とスライムの線を比べ、安堵のため息をついた。
何といっても隆一の実験室でちょくちょく増やして新鮮なスライムジェルやスライム水をゲットするために飼っているスライムは隆一の魔力しか実質食べていないのだ。
そうなると、『生き物は食べたモノによって形成される』ではないが、スライムの魔力が隆一と同じである可能性もゼロではなかったので、少なくともここで違いがはっきり見えるのは助かる。
「そんでもってもう一体との違いは・・・と」
一部赤にしたシャーレを魔力認証の魔法陣に乗せて起動する。
するするするっと現れた線を最初のスライムの線と重ねて照明に透かして比べたところ、多少の違いがあるようだった。
「よし。
少なくとも違いはあるな。
ついでに突進豚も確認するか」
昨日の実験で使った突進豚を再度冷凍庫から取り出し、魔力認証の魔法陣に乗せる。
これも明らかに魔力の波動を表す線が違う。
が。
どうも線の動きが真っすぐ過ぎるような嫌な予感がした隆一だった。
突進豚を再度冷凍庫に戻し、レッドブルの肉を代わりに取り出してチェックする。
「同じ・・・ですかね?」
横から覗き込んだエフゲルトがコメントする。
「もしかして、これって冷凍庫の魔力か??
ちょっとこれを冷凍庫に突っ込んでおいてくれ」
最初のスライムのシャーレをエフゲルトに渡し、隆一はレッドブルと突進豚の魔力線を照明に透かして確認した。
一応魔力の同一性を確認する機能も魔法陣として存在するのだが、この段階ではどの程度の違いがあるのかがはっきり自分の目で確認する方が何が問題かわかりやすい。
「微妙に違いがあるが、おおよそ同じって感じだな」
試しに突進豚を魔力認証元として登録させ、レッドブルの魔力を確認したら『同一』という結果になった。
「実は魔力認証ってかなり大雑把なのか??
エフゲルト、これに魔力を通してくれ」
先日血をよこせと思わずエフゲルトに迫ってからエフゲルトを実験台にするのは自粛していたのだが、魔法陣に手を乗せて魔力を通す程度だったら構わないだろう。
「はい」
冷凍庫から戻ってきたエフゲルトが左手を乗せて魔力を通す。
魔法陣を起動させて映し出した波動はかなり隆一のものとは違った。
スライム二体の違いよりもずっと違う。
「……スライムと俺の魔力の方が、エフゲルトと俺よりも近似性が高いな?」
思わず二枚の魔力線を見比べた隆一が呟いた。
「人間同士ってスライムと人間よりも魔力に違いがあるんですか??」
エフゲルトがちょっとショックを受けたように魔力線を覗き込んだ。
「もしかしたら、スライムはずっと俺の魔力を食ってきたから俺と少なくとも属性とかが同じになっていたのかも?
ちょっとザファード達の魔力を確認してこよう」
冷凍庫問題もあるが、魔力の個人差もどのくらい違いがあるのか、これが魔物だったらどう違うのか、色々と調べるべきことが出てきた。
それに生きた対象からでない場合に魔力がどんなふうに現れるかを調べる必要もある。
髪の毛もざっくり一握り分ぐらい切ったらテストに使えるのか、試してみたいが……自分はまだしも、他の人間の髪の毛をざっくり切るのはちょっと顰蹙ものかも知れない。
やはりまた、迷宮でコボルトを虐待プラス虐殺する必要がありそうだ。
『また?!』




