1173.久しぶり(2)
「で、そんな風に同じ複製体が多いとどんな意味があるんだ?」
ショートケーキの半分ぐらいを食べ終わったアーシャがお茶に手を伸ばしながら尋ねる。
「あまりないかなぁ。
思わず面白かったからついつい時間と手間をかけた上に他の人間まで巻き込んで調べまくってしまったが、大して応用出来るような意味はないかも?
それこそ、薬なり魔道具なりの素材として魔物の部位を使った際に、成功する場合と失敗する場合が何故かあるなんて言う場合に、その個体情報を確認して成功する個体と同じ複製体が出てくる狩場で素材を集めたら成功率が上がるかもって程度かな」
人間に臓器移植とか輸血をするのだったら個体情報は重要だが、魔物のそんな使い方はまずしないだろう。
だが個体差によって錬金するとか薬を調合する際の成功率に違いが出る可能性はゼロではない。なので同じ人間が錬金しても成功と失敗するケースがある場合だったら、個体差があり、同じ個体が迷宮内ではリポップするという情報があれば同じ個体を集めれば同じような結果が得られる可能性はあるかも知れない。
「だが、歯形で確認するんだったら結局倒して確認しなければ分からないんだろう?
錬金術師側にとっては失敗する素材を買わなくて済むかもしれないが、探索者側にとっては手間が増えるだけで損な発見じゃないか?」
アーシャが指摘した。
「まあ、確かにな。
成功する個体の情報を確認するために頭ごと持ってこいっていうのも大変だし。
成功した素材が頭ごと入手されていたとしても、それが迷宮のどこら辺で倒された個体かが分からなければ、どこそこ迷宮のどこら辺にいる魔物を取ってこいって指定する事も出来ない。しかも持ってこられた素材の個体情報を確認するためにそっちも頭ごと持ってこいってことになったら、ただでさえ『当たり』の個体を見つける為に数が必要なのに持ち帰る手間が多すぎて無理かな?」
インベントリとかストーレージとかアイテムバッグといったような容量をかなり無視できるラノベ定番の亜空間収納がない現実を考えると、やたらと沢山魔物の部位を持って帰ってこいっていうのは無理がある。
そう考えると、錬金や薬の材料として個体差があるという情報があっても、適した個体を繰り返し取ってくるのはほぼ不可能に近そうだ。
「それこそ何か魔道具で個体を識別できるようなのを作り上げられないのか?
同じ個体が存在するってことだったら、リポップしたのが欲しい素材と同じ個体のコピーなのかどうか、確認できる魔法陣があってもよくないか?
どんな違いがあるかを色々と識別して分析するのは難しいにしても、まったく同じか否かを識別させるぐらいだったら出来そうな気もするが。
ある意味、魔力認識の鍵と似たような感じなのを残存魔力なり何かそれに近いもので出来ないのかな?」
アーシャがちょっと首を傾げながら言った。
そんなむちゃな……と言いかけて隆一は口を閉じた。
遺伝子分析のような技術はどう考えたってこの世界の技術レベルでは無理だと思っていたが、魔力認識という手段は存在するのだ。
魔物の素材だったら魔力がある程度残るし、魔力を通した時の反応も個体差があるのかも知れない。
だとしたら、『サンプルと同じ』か『サンプルと違う』という0か1か程度の識別をさせる魔道具は不可能ではないかも知れない。
まあ、そこまでの精度が必要な素材なんぞ必要になる可能性はほぼ無さそうだが。
大体、魔物にしたって殺す前に魔道具を刺して欲しい個体かなんて確認するのは難しいし、ぶすっと魔道具を刺された魔物に『あ、違った。失礼』と言ったところで笑って許す訳ではないのだから、そこまで近づいた魔物とは戦闘になってどうせ殺すことになるのに変わりはない。
とは言え。
適合した素材だけを錬金術師が買い取り、残りはギルドが買う形にしたら無駄は減るかも知れない。
現時点ではそこまでの精度が必要な素材なぞ存在しないが、いつかそんなことが起きる可能性を考えて、ちょっと研究してみてもいいかも知れない。
個体認識が出来ても、魔物に直接接触しなくちゃ確認出来ないんじゃあ実用性はあまり無いでしょうねぇ……




