1171.鍛錬再び(4)
「火槍!」
白の御影石ゴーレムのテリトリーに入った隆一は魔力を練り始め、近づいてきたゴーレムにしっかり狙いを定めて火槍を放った。
やっと今回はちゃんと核に命中し、一撃でゴーレムの動きが止まった。
「しまったな、他の魔術との威力比較のためには核を少し外す方がよかったか」
ゆっくりと倒れるゴーレムを見ながら隆一がふと呟く。
「もう一体別のゴーレムを倒すか?」
デヴリンが尋ねた。
「いや、今日はいいや。
これの……頭部と胴体を持って帰って、何か白だと黒やさび色と違う特徴があるようだったら次回また倒して確認するよ」
核を外した時も含めた使い勝手の良さだったら、他をうっかり巻き沿いにしても被害の小さい氷系の方が火系より良さげだし。
火槍が核を掠った場合でも熱でゴーレムの動きが悪くなるとしても氷槍と同じ程度な可能性が高そうだ。
火槍で抉れたゴーレムの胸部の様子を見る限り、極端にゴーレムが高熱に弱い様子でも無い。これだったら無理に火系魔術に拘らなくても良いだろう。
今回のゴーレムは核が胸にあったおかげで、胸が大きく抉れているが穴が開くほどではない。
「デヴリン、攻撃が当たった辺の下あたりで横向きにスパッと胴体を切って貰うのって可能か?」
自分で風槍か水槍の術をぶつけて上半身を引きちぎるよりは、デヴリンに奇麗に斬撃で切って貰らう方が破損が少なそうだ。
「まあ可能っちゃあ可能だが。
今回は頭と胴体の上半分を持って帰るのか?」
剣を抜きつつ近寄ってきたデヴリンが尋ねる。
「ああ。取り敢えず、ゴーレムの手足と頭・胴体で何か違う特徴があるかを確認したいのと、素材ごとで何か違いがあるかも確認してみたいんでね」
厳密に調べるならば同じ部位の色違いを集めるべきだろうが、流石にそれをやっていくと持って帰らなければならない部位が増えすぎるので、色ごとに部位を決めて集め、それで偶然逃した発見があったらそれは運命という事で諦めるつもりな隆一だった。
近寄ってきたデヴリンが隆一の横に立って剣をブンっと振るう。
隆一が攻撃魔術を放つために魔力を練る時のような集中をしている様子もないのに、あっさり御影石ゴーレムの胴体が横に二分した。
「あっさり切れるもんだなぁ。
これだったらゴーレムの群れとかに当たってもすぱすぱ切り捨てごめんって感じになりそうだ」
石材をがんがん集められそうだ。
デヴリンほどの腕を持つ人間を石の採取作業に使うのは無駄すぎるだろうが。
「死んだ……というか倒した魔物っていうのは基本的に切り分けやすくなるんだよ。
流石に15階のゴーレムだったら実際に倒すときはもう少し気を籠める必要がある」
デヴリンが答えた。
「そういえばそんなことを聞いたことがあったかも?」
切り離された頭部と胴体半分弱を運搬具に乗せながら隆一が動きを止めてちょっと首を傾げる。
隆一は目で見た情報はほぼ完璧に覚えているが、耳で聞いた情報はそこまで完全には残らない。なので情報がほぼ全て口頭で提供されたこちらの世界の教育内容にはちょくちょく取りこぼしがあるのだ。
それはさておき。このサイズの岩ゴーレムを半分弱に切り分けられたとは言え、自分一人で持ち上げられるようになったのだ。
かなり基礎能力が上がっているのが実感できる。
一応今でも筋力は週1ぐらいの頻度で確認しているのだが、数字が上がっても微妙に実感がなかった。
地球にいた時だって重いものを持ち上げようとしてぎっくり腰になったというような経験はなかったが、重い荷物を持ち上げるときなどはかなり力を掛けて、体のバランスを気を付けながら動く必要があった。それが今ではかなり気軽に重量があるものを持ち上げられるようになった。
今だったらオリンピックに出場出来るポテンシャルがあるかも知れない。
技術が全然なので実際に大会で競うのは難しいだろうが。
「よし!
では帰る前にいちご狩りだ!」
久しぶりにショートケーキも食べたい気分になっていたのでランチの時に予約しておいたから、今日の帰りにでもアーシャにお茶に来ないか誘ってみてもいいかも知れない。
デブリンが逆召喚されて、地球でフェンシングの大会に出たら凄い事になるかもw




