1170.鍛錬再び(3)
「最後に白の御影石ゴーレムを倒そう。
火槍を使うけど、別にここら辺なら火事になる心配はしなくていいよな?」
さび色ゴーレムの右腕と魔石を運搬具に放り込んだ隆一が立ち上がりながらデヴリン達に尋ねた。
外では火事になる危険を考えると基本的に戦争やかなり特殊な地形環境でない限り火系の魔術は使うべからずと教わっているが、迷宮内では比較的自由な筈。
15階は岩の多い荒野っぽい場所なので、燃えるものがあまりないし、そもそも迷宮内の木材や草は着火するのか不明だ。
「おう、良いぜ。
というか、ウッドゴーレムはまだしも、それ以外のゴーレムがいるところは基本的に岩山や荒野が多いからな。火系の魔術で攻撃しても大丈夫なことが多い。
仲間内でうっかり攻撃が当たった時の被害が多いからあまり推奨されてはいないが」
デヴリンが応じた。
「ちなみに、迷宮内でも森や草原みたいなところで火系の魔術を使ったら火事になるのか?」
自然の草や木は定期的に雨が降っていれば緑色の植栽に火が付くことはあまりない。
足元の枯れ草が乾燥しまくっているとちょっとした焚き火や落雷からそちらに着火して、油分の多い常緑樹などの燃焼温度になってガンガン山火事を広げていくことはあるらしいが、何といっても迷宮内の木は落葉しないのだ。
落ち葉も当然ない。
とは言え、雨も降らない。少なくとも隆一が踏み入れた範囲に迷宮では。
なので木材や草がどの程度渇いているのかは微妙に不明だ。
「迷宮内で普通に単体の攻撃魔術を放ったところで火事になることは滅多にないな」
デヴリンが答える。
「火槍を使うけど、つまりここら辺なら火事になる心配はしなくていいんだな?」
白の御影石ゴーレムがいる筈のテリトリーの場所を頭の中で検索しながら隆一が再確認する。自分に攻撃魔術が原因で起きた火事の炎にまかれて死ぬなんて、間抜けすぎて嫌だ。
「探索者の荷物やテントにうっかり火が燃え移った場合はそれが着火剤みたいな役割を果たして周囲が短期的に燃えることはごく稀にあるが、基本的に迷宮内の木は集中的に火系の攻撃魔術を叩き込まない限り簡単には燃えないし、うっかり火事が広がるってこともないね」
ダルディールが詳しく説明してくれた。
「それって迷宮内だったら火系の攻撃魔術を使いまくっても大丈夫ってことか?
それに慣れた探索者の魔術師が外でうっかり山火事を広げそうな気もするが」
やはり燃焼ダメージも考慮に入れると攻撃力は火系が一番高いように思える。
氷系も動きを鈍くする効果があるが。
「火系の魔術は周囲の温度を上げる効果がある。
1階みたいな迷宮型とか洞窟型の階層でやると暑苦しいし、素材を劣化させて買取価格を下げることも多いからな。
ゴーレム相手なんかだったら思う存分火系の魔術を叩き込む魔術師は多いが、その他の階層では我慢していることが多いから、外でのうっかりもそれほどはない……かな?」
ちょっと自信なさげにデヴリンが言った。
誰か、うっかりをやらかした魔術師に心当たりがあるのだろうか?
隆一もやりそうだから、取り敢えず効果のほどを確認した後は余程のことがない限り、使わないでおこう。
そんなことを考えながら15階のマップを脳裏で確認し、狙ったゴーレムのいる方向へ進む。
「あれ。
いないや」
テリトリー内で徘徊するとは言え、15階の魔物テリトリーは大体隆一の魔力感知範囲内なのだが、狙いの魔物のテリトリーに魔物の影は無い。
「15階はそれなりに人気な階層だからな。
どの色でも一体も見つからないと言う事は無いだろうから、探そうぜ」
デヴリンが慰めるように言った。
なるほど、これが探索者の苦楽の苦の部分なのか。
「苦労だなんて、烏滸がましいぞ!!」
お守りがいて安全が確保されているんだから、苦労しているなんて言ったら他の探索者にボコられそうw




