1169.鍛錬再び(2)
御影石(多分)ゴーレムを倒した隆一は、魔石を取り出してついでに左足の部位も運搬具に乗せた。
何か新しい発見が無いか、御影石ゴーレムも一度しっかり確認してみたい。
14階の穴兎と16階のイチゴに気を取られて15階はかなりおざなりにしか探索していないので、ゴーレムに関しても10階や5階のゴーレムと大して差がないだろうと真面目に調べていない。何か新しい発見がないか、一度しっかり鑑定するべきだろうと考えたのだ。
本来ならば体の部位全部をしっかり持って帰って調べるなり、ここで調べるなりすべきだが、穴兎狩りに熱が入りすぎてイチゴ狩りの予定がかなり押しているし、15階のゴーレムの全身を持って帰ろうと思ったら1体で運搬具が一杯になってしまう。なので手と足と、違う個体から部分的に持って帰る予定だ。
「じゃあ、次だな」
色違いの硬石ゴーレムに何か違いがあるのかも、興味がある。
5階や10階のゴーレムはどの素材のゴーレムであるかでそれなりに違いがあったが、15階はすべて硬石ゴーレムであるため、個体差は色だけと漠然と考えていた。だが考えてみたら同じ御影石だとしても白、黒、さびの色違いで完全に同じ反応を示すのかは隆一は知らない。
異なる化学反応なり素材なりで出来上がった異なる色なのだから、微妙に反応に違いがあっても不思議はない。
魔物なので地球の石と同じと考えるべきではないだろうが。
という事で、次はさび色のゴーレムを狙った。
「風槍!」
今度は風の攻撃魔術を放ってみた。
ラノベなどでは土系統の魔物は風系統の術に弱いもしくは反対に強いというような違いがある設定が多いが、こちらの世界ではどうなのだろうか。
がこん。
風槍がゴーレムの腰近くにある核の傍に当たるが、直撃しなかった。
やはり実戦ではイマイチ魔術の精度が悪い。
これでも初期に比べれば大分とよくなってはいるが。
どうやら風系の魔術だと追加ダメージがあると言う訳では無いらしく、ゴーレムがそのまま隆一の方へ駆け寄って来る。
「氷槍!」
練り直していた魔力を攻撃を気に留めない様子で走り続けて近付いていたゴーレムに放ち、これでダメだったら足止めをと思ってクロスボウで狙いをつけようと腕をあげる。
幸いにも今回は近かったせいもあってか攻撃が核を直撃して、ゴーレムの膝がガクンと折れてゆっくりと体が地面に倒れた。
隆一の側に近寄っていたダルディールがそれを見て、さり気無く周囲を見回すのに良い位置まで下がる。
どうやら、攻撃と足止めの両方に失敗したら盾で守る準備をしていた様だ。
「死にそうに無かったら、ちょっとボコボコにされても見守るだけにするんじゃ無かったのか?」
ゴーレムを解体しながら隆一が聞いた。
「流石にスピードの乗った一撃が頭に入ったら下手をしたら死ぬからね。
攻撃の角度次第では止めなくては責務を果たせないだろう?」
穏やかにダルディールが応じる。
「ギリギリまで手を出さないでくれと頼むと返って護るのが大変そうだな」
ある程度隆一が戦える様になる方が護衛側にとって楽かと思っていたが、確実に戦えるところまで腕を上げていないと、却って中途半端に戦いに参加しようとするせいで面倒な事になっている気がする。
「まあ、誰だって実戦の経験を積まなければ強くはなれないからな。
新米騎士や探索者を育てる時だって、死なない様に見張りながらやっているんだ。
俺とダルディール二人で隆一だけに目を光らせていれば良いのだから、楽なもんさ」
笑いながらデヴリンが口を挟んだ。
なるほど。
確かに、探索者や騎士だって新米が成長する為には実戦経験が必要であり、それを死なせない様に先輩役が目を光らせてある程度は引率する必要があるのだ。
育てる苦労に大して違いはないか。
失敗した時の影響は遥かに大きく、重いが。
「うっかり死なない様、頑張るよ」
隆一がうっかりとんでもない失敗をして迷宮内で死んでも、ダルディール達に天罰が降ることは無いだろう。
多分。
王宮から恨まれて国を逃げる羽目になる可能性はそれなりにありそうだが。
死なない様気を付けねば、と改めて自覚した隆一だった。
ちょっと面倒だが、戦争回避の為だと思ったらあまり文句を言うべきでは無いだろう。
訓練事故って毎年ある程度はありそうですけどねw




