1168.鍛錬再び
「今日は14階で穴兎を集めたら15階で硬石ゴーレムと戦い、最後に16階でイチゴを集めて帰ろう」
2日ほど休みにしてその間に騎士団にタルニーナのケーキを差し入れした隆一は、そろそろ集団戦の鍛錬も終わらせて更に下の方へ行くことにした。
「もうコボルトの歯形はいいのか?」
にやにやしながらデヴリンが尋ねる。
「まあ、それこそ内臓を解剖して各個体の差異を確認するんじゃない限り、これ以上チェックできることはそれほどないと思うからな。
複数で攻めてくる相手の対処も慣れてきたと思うから、そろそろ下に進んでいってもいいだろう」
顕微鏡で血液型を確認するといったことも可能ではあるが、魔物の血液型の分布を調べたところで特に得るものがあるとも思えない。
人間に輸血できるぐらい互換性のある肉体を持つ魔物が存在するのだったら、その血液型の分布を調べるために虐殺をしまくるのもありだろうが、流石に現時点までに遭遇した魔物で人間に輸血できそうなほど人間に近い存在は見ていない。
というか、チンパンジーですら人間に臓器や血液を提供する相手としては適さなかったのだから、それよりも人間から離れたゴブリンやコボルトが役に立つとは到底思えない。
どう考えても無理だろうし、無理でなくても患者側が嫌がるだろう。
そう考えると、これ以上迷宮にいる個体のプロトタイプ数やその個体差を調べてもあまり意味はなさそうだ。
「穴兎とイチゴか。
いいな」
嬉しそうにデヴリンが手をすり合わせた。
穴兎はさんざん倒しまくってきたので特に鍛錬としては得るものも然程無い様に思うが、あの肉の燻製の在庫を増やしておきたいので14階は必須だ。
暫くは騎士団に我儘を押し通す予定はないが、突然何か気になることが出てくる可能性は常に考えて、賄賂用の穴兎の燻製は常備しておくに越したことはない。
ということで。
15階まで転移門を使って移動した隆一たちは、午前中いっぱい使って穴兎を倒し、冷凍保存しまくった。
リヤカーが一杯になったところで地上階へ戻って肉を各家や家族に送り付けてから昼食を食べた一行は、昼食後にまた15階に戻ってきた。
「さて。
15階のゴーレムだったら足止め用魔道具を使わなくても倒せそうな気もするな。
考えてみたら、ゴーレムが複数群がって襲ってくる階層もあるのか?」
一応クロスボウ型足止め用魔道具を準備しながら隆一が護衛役の二人に尋ねた。
「20階になると鉄や鋼のゴーレムが硬石ゴーレムと混じって複数動き回っているな。
テリトリーが重なっている場所が多いから、運が悪いと3体一緒に戦う羽目になったり、1体と戦っているときに後ろから襲われる可能性もある」
ダルディールが答えた。
17階のバターブルのバターや乳に気を取られて下への探索を止めていたが、26階まで行かなくてもやはり徐々にハードルが上がっていくらしい。
「よし。
折角一体ずつ来るなら、出来るだけ助けも足止めもなしに倒せるよう頑張ってみる。死にそうにならない限り、手を出さないでくれ」
隆一が二人に頼む。
攻撃魔術で倒しきれなくても足止め用魔道具で動きを止め、その間に倒すなり逃げるなり出来る筈。
「おう、がんばれよ~。
回復師やポーションで直せる程度だったら手を出さないようにするよ」
デヴリンがおおらかに頷く。
そろそろ隆一を過保護に守らなくてもいいと思ってくれるようになったのだろうか?
ヴァーレ迷宮やファルダミノ迷宮やその帰り道での戦闘を考えると相変わらず隆一を何が何でも守るという騎士団(国?)のスタンスは変わっていないようだが、デヴリン個人としては隆一がそう簡単に死なない位に育ったと思ってくれるようになったのかもしれない。
黒い御影石っぽいゴーレムが近づいてきた。
「さて。
氷槍!」
ザクっと良い感じに氷の槍がゴーレムの核のすぐ側に刺さる。
核を直撃はしなかった様だが、核周辺が氷結するのでも影響があるのか、動きが明らかに遅くなった。
こう言う効果があるなら氷を攻撃魔法に使うのは水や土や風を使うよりも追加的効果が高そうだ。
「もう一丁、氷槍!」
しっかり核に氷も槍がぶつかり、ゴーレムがゆっくりと倒れた。
「15階のゴーレムを魔術二発だけで倒し切るとは、大分と腕が上がってきたな!」
デヴリンが満足げに言った。
師匠として満足してもらえた様だ。
うむうむ、流石俺の弟子。
剣じゃなくて魔術で戦ってるけどw




