1163.ファルダミノ迷宮(7)
「食べないと午後にばてるぞ」
隆一が解体した火吹き鳥の部位を保存袋に入れて運搬具にしまったのを見たデヴリンが声をかけてきた。
「大丈夫、早食いは得意なんだ」
昼食用のサンドイッチモドキをぐいぐいと口の中に押し込む合間に隆一が応じる。
仕事でミーティングや実験の結果待ちの合間に栄養補給をするのはよくやってきたことだ。
却ってネットでニュースや小説や論文を読んでいた学生時代の方がゆっくり食べていた気がするが、社会人になってからは繊細な先端機器のそばで食事をするわけにもいかないのでひたすら早く食料を飲み込む技術が向上したのだ。
まあ、家でうっかり昔の癖で早食いしたらアリスナに物凄い目で見られたので、最近はもっとお行儀よくちゃんと噛んで食べるようになったが。
ザファードには何も言われなかったが、考えてみたら地球の食事マナーに関して大分と誤った印象を神殿の人々に与えたかもしれない。
煌姫との食事の際には意識してゆっくり食べるようにしていたのだが、今でも気がせいたらエフゲルトですら目を丸くするようなスピードで食べ終えてしまう。
「そんなに急がなくても、前回来ていなかった者にも歯形の取り方を既にちゃんと教えてありますので、もう作業を始めていますからご安心ください」
フリオスが声を掛けてきた。
言われてみて周囲を見回したら、確かに騎士たちが散らばってコボルトに対処し始めている。
「あれ?
何を使って練習したんだ?」
「口頭で説明した後、一度王都迷宮に行ってコボルト相手にやっていますから。
前回はデヴリン一人で前もって教えておくにはちょっと人数が多すぎましたが、今回はそれなりに経験者が居ましたし、日数もありましたので効率化のために練習させておきました」
フリオスが笑いながら応じる。
なるほど。
確実に今日1日でファルダミノ迷宮のコボルトのチェックを終え、ペルワッツ迷宮は騎士団の人間だけでできると隆一を説得できるように色々と準備をしてあったようだ。
きびきびと動き回っている騎士団を見る限り、実は今回だって隆一が同行する必要はなかったのだろう。
とは言え、レッサーコカトリスや火吹き鳥といった新しい魔物に出会えたので、我儘を言った甲斐があったと思うが。
ヴァサール王国的にも単に招かれ人に振り回されただけというのではなく、何か新しい発見が国の為になったと思えるようになると期待しておこう。
あの火吹き鳥の器官や、レッサーコカトリスの毒は中々興味深い。
きっと何か利用法があるだろう。
まあ、魔術がある世界だったら着火手段を新しく見つけてもさして利便性は高くないかも知れないが。
既にコンロなど、着火して加熱できる魔道具があるのだ。
そう考えるとライターモドキを開発しても大して人気は出ないだろう。
火吹き鳥よりもレッサーコカトリスの毒を研究した方が何か役に立つかも知れない。
そんなことを考えながら、ランチをさっさと食べ終わった隆一はコボルトの歯形取りに繰り出した。
基礎能力値が上がり、そして狩にも慣れてきたおかげでコボルトだったら殆ど足止め用魔道具を使わなくても群れを対処できるようになってきた。
まあ、今日はデヴリンとダルディール及びフリオスが一緒に戦っているので実質『戦い』どころか『瞬殺』に近いが。
◆◆◆◆
「どうだ?」
2つほど群れを殲滅し、周囲にコボルトが居なくなったので集められてきた歯形を見分し始めた隆一にデヴリンが声を掛ける」
「全部、王都迷宮かヴァーレ迷宮のコボルトから取った歯形と一致しているな。
どうやら迷宮のコボルトは決まった型から全部複製しているらしい。
外にいる野良コボルトの歯形もそのうち確認してもらいたいところだが……探索者ギルド依頼を出したらやってもらえるかな?」
野良のコボルトは自然にポップするよりも雄と雌の間で生まれて増える個体が多いと聞く。
その場合ですら迷宮内のプロトタイプと一緒だとしたら……ある意味ちょっと神の世界設計の細やかさに恐怖すら湧く。
「探索者に歯形を取らせるのは無理だから、首から上を持ってこいって依頼にするしかないだろうな。
顎や歯を損ねない殺し方をしろと指定する必要があるだろうが」
ダルディールが言った。
腐り始めた魔物の首から歯形を取る作業もちょっとうんざりだが、流石に騎士団をそんな作業に駆り出すわけにはいかないだろう。
「冷却させる魔道具を持たせて、腐らないように持って帰らせる指名依頼っぽい感じにできるかな?」
隆一が尋ねた。
流石に腐った魔物の口の中を調べるのはやりたくない。
腐った首を大量に受け取るのは避けたいですね;




