1160.ファルダミノ迷宮(4)
「あれがダチョウの魔物か。
一体持って帰らせてくれ」
早朝に突入したファルダミノ迷宮に出て来る魔物は3階層までは王都迷宮で見たタイプだった。
が。
4階層目にいた蹴り駝鳥という蹴るのが主たる攻撃手段と思われる名前の魔物はくちばしもなかなか鋭そうで、あれでグサッとやられたら大怪我しそうだった。
初めて見る魔物なので色々と鑑定して研究したいが、流石に今日はそれをする暇はない。
という事で取り置き希望を出した隆一だった。
「まあ、取り敢えずあれとレッサーコカトリスだけ1体ずつ持ち帰りましょう。
新しい素材の研究は推奨すべきことですし」
フリオスがサクッと風矢で蹴り駝鳥の首を飛ばしながら言った。
流石プロ。
突進してくる魔物の、体のサイズに対してかなり細い首をあっさり一撃で刎ねるとは。
なんかこう、デヴリンが斬撃で首を切り飛ばしても『ああ凄いな』で終わるのだが、同じ魔術を使う身としてはあっさり細いターゲットに命中させているのを見ると感心してしまう。
騎士がさっと蹴り駝鳥の死骸の回収に動く。
こういう時にラノベにあるような時間凍結のマジックバッグがあったらいいのにと本当に思ってしまう。
時間を止めるなんて言う魔術ですらないのにそれを道具で実現するなんて更に難しそうだが、折角の異世界でファンタジーな魔法世界なのだ。
どうせならそういうのも欲しかった。
取り敢えず、冷却用の魔道具を起動して一緒に妖精の手をつけたリヤカーに放り込み、先へ進む。
「休憩しましょう」
5階層に降り、キュルトに案内されて比較的探索者が通らないルートで魔物のリポップも遅いという場所に引っ込み、一団は一息ついた。
「言われていた通り、王都迷宮よりもひっきりなしに戦闘を警戒する必要があってまだ上層なのにちょっときつい感じだな」
水筒を出してお茶を飲みながら隆一がコメントした。
王都迷宮だと、少なくともマッピングを終えて魔物のテリトリーをきっちり把握している隆一の場合、魔力感知も合わせると基本的に自分のタイミングで戦える。
それがここだとキュルトに貰った地図があるとはいえ常に魔物のテリトリー内であり、更に他の探索者の動きなどで魔物が湧くタイミングも動きも影響を受けるせいでいつ襲撃があるか、読めない。
先行しているパーティや、同行している騎士たちが基本的に対処してくれると分かっているにしても、場合によっては自分のすぐそばにリポップする可能性もあると思うと常に警戒し続ける必要があり、最初に探索を始めた頃のような疲れを隆一は感じていた。
「少なくとも出てくる魔物が分かっているだけ、楽だぞ?
本当の未攻略な迷宮だと何もわかっていない領域を進むことも多いし、場合によっては突然中身が変わることもあるからな。
ヴァサール王国の探索者は他国に行くと弱いと嗤われることが多いのは、あの王都迷宮に慣れすぎているせいもあるんだ。
そう考えると、例えペルワッツを攻略したとしても中身は弄らずに適当にエリクサーでも多めに貰っておく方が、長期的には国の為になるかも知れんな」
デヴリンが言った。
「確かに、ここですら王都迷宮に比べるときついんだ。
大型迷宮で調整されてないとしたらガチで大変そうだな。
そういうのを一つぐらい残しておく方が探索者のレベルを上げるのに役に立ちそうだ」
ほぼすべての迷宮が攻略されており、隆一の迷宮サーチ用スクリーンのおかげで国内に未発見な大型迷宮が育つ可能性が極めて低くなったヴァサール王国が、そこまで探索者の腕を上げる必要があるかどうかは微妙に不明ではあるが。
まあ、何かの間違いで世界が魔物に押し流されそうになるような大惨事が起きる可能性だってファンタジーな異世界だったらありえそうだ。
その際に魔物と戦う専門家である探索者のレベルを上げておくのは国の存続に役立つだろう。
多分。
「そんじゃ、続きを行こうか。
次は7階にレッサーコカトリスがいるんだよな?」
本当ならばコカトリスそのものも見たいのだが、あれは14階にいるらしいので流石に9階からそこまで下りると主張するのは我儘が過ぎるだろう。
……そのうち金をだして、コカトリスの死骸を持って帰ってくる依頼を出してもいいかも?
コカトリスの石化魔術を研究したいと密かに考えている隆一w




