1158.ファルダミノ迷宮(2)
「それはさておき。
今回も街の外で2泊して、迷宮探索は1日で終わらせる予定です」
フリオスがパンパンと手をたたいて話題を本筋に戻した。
「ああ、それが一番無難なんだろうな」
隆一が頷く。
「取り敢えずは今日の昼食後に王都を出てファルダミノへ飛び、2パーティ分の10人が町の中で宿に泊まっておいて日の出前ぐらいから下に降りるルートの間引きを始めます。
リュウイチ殿と本隊は朝食後直ぐに迷宮に入り、必要に応じて5人ずつのパーティが順番に戦闘担当となってとにかくリュウイチ殿を9階まで連れて行くのを急ぎ、予定としては昼までに到着したいと考えています」
フリオスが続ける。
「ヴァーレで20階まで昼食時間ギリギリぐらいにたどり着けたんだから、9階だったら問題無く着けそうに思うが、ファルダミノはそれ程戦闘が多いのか?」
隆一がフリオスの言葉に少し首を傾げながら尋ねる。
20階下りるのはちょっときつい持久走の早歩きバージョンだったが、9階分かつもう少し狭い迷宮なのに、何故こちらの方が大変そうな印象なのだろうか?
「ヴァーレと違いファルダミノは魔物と戦わずに下の階層へ進められるようにはなっていないから戦闘は不可避な上、もっと探索者がいるので別のパーティが戦闘をしていた場合はそれを避けるルートをとる羽目になる可能性もあるんだ。
だからどのくらい戦う羽目になるかによってあの迷宮を探索できるスピードは大きく変わる」
キュルトが隆一の疑問に答えた。
なるほど。
戦闘というのは終わった後に解体をしなくてもそれなりに時間がかかる場合があるし、少なくとも魔石は回収しておかないと他の探索者の注意を引きそうだ。
「今回行く騎士は全員ファルダミノ迷宮の10階までの転移門を使える人間なので、戦闘をしていて遅れた場合は転移門で先に行くことも視野に入れています。何らかの理由で迷宮内が通常以上に混雑していて移動そのものに遅延が生じるのでない限り、昼までに9階にたどり着けるでしょう。
前回と同じように夜に街門が閉まる時間をタイムリミットとしてコボルトを倒し、最終的には10階の転移門から退出する予定です。
場合によっては9階全てのコボルトを倒せないかも知れませんが、これでよろしいでしょうか?」
フリオスが説明を続ける。
「ああ、構わない。
ファルダミノの方がヴァーレより小さいんだし、階層も上なんだからコボルトを倒しきれないとも思えないが、何らかの理由で間に合わなかった場合は諦めるよ」
隆一が頷く。
実質隆一の好奇心を満たすだけの遠出に、それなりの人数の騎士を借り出すのだ。
贅沢を言うべきではないだろう。
「ちなみにヴァーレは王都迷宮よりも同じ階層で比較すると魔物が弱いようだったが、ファルダミノはどうなんだ?」
王都迷宮で13階にいるコボルトがファルダミノでは9階というのは、全般的に強いのか、それともファルダミノの個体が弱くなるのか、興味がわくところだ。
「ファルダミノと王都迷宮だと必ずしも出てくる階層や順番が同じではないんだ。
だから名称が同じ魔物でも、強さが違うことがあるのも注意する必要がある。
コボルトに関しては……ほぼ同じぐらいかな?
かなり昔の記憶だから微妙に不確かだが」
キュルトがちょっと自信無げに答えた。
「へぇ?
そういえば、ファルダミノの各階層の魔石って王都迷宮の魔石と同じランクになるのか? それとも少し内包する魔力が多いとかあるのか?」
隆一がついでに気になった点を尋ねる。
ヴァーレはあまりにも素材特化だったせいで魔石はおまけ扱いだったから、最初から王都迷宮と比較対象にすらならない感じだった。ファルダミノはある意味常識的な迷宮のようなので、魔石も王都迷宮と似たような物になりそうだが。
「魔石はファルダミノと王都迷宮で階層ごとの魔力内包量はさほど変わらないな。
だが、素材に関してはファルダミノと王都迷宮のと然程違いがないことが多いので、ある意味9階のコボルトの毛皮が13階の毛皮と殆ど品質が変わらないと考えると、ファルダミノの方が王都迷宮の階層相応よりも良いと言えるかも?」
ダルディールが言った。
なるほど。
とは言え、ルートを選んでも興味がない魔物と遭遇しない進み方ができないとなるとファルダミノの方が面倒そうな気もする隆一だった。
王都迷宮はマジで至れり尽くせりな迷宮。
これを基準に考えて他国に行ったりするとショックを受けるw




