1152.次は(4)
「コボルト虐殺再びか~」
王都迷宮の前で会ったデヴリンが挨拶の後に軽くため息を吐きながら言った。
「飽きてきただろう、悪いな」
一流の元探索者であり、騎士団の副団長を借りだすには微妙な探索内容である。
思わず微妙に良心の咎めを感じた隆一が謝った。
「いやまあ、新しい領域へガンガン行きたがるような探索者は長生きしないことが多いからな。
飽きるぐらい入念に階層を探索して調べまくる方が地力が上がるし、場合によっては金になる素材を発見できたりするんで正しい姿なんだが……。
最近はリュウイチも自分で戦えるようになったから、ちょっと退屈でね」
デヴリンが笑いながら応じた。
「コボルトだけだったらダルディールが傍に居ればそれで十分な気もするが……騎士団や探索者ギルドが相変わらずデヴリンもお守りとしてついて回る事を推奨するって言うことは、やはり人間の襲撃を警戒しているのか?」
働かなくて良いというのが好きな人間は多いが、隆一の後をついて回らねばならず、暇つぶし代わりにはコボルトの胸を切り裂いて魔石を取り出すのと歯形を取る作業とを延々と続けなければならないというのは、確かに中々苦痛な作業だろう。
それだったら本気で戦う階層に行く方がまだやりがいがありそうだ。
「まあなぁ。
ただでさえ招かれ人と言うのはなんとしてでも手に入れたい対象なのに、リュウイチは色々と便利な魔道具を開発しているからな。
最終的には大陸の他の国へ情報を開示するにしても、先にヴァサール王国で広めてからと言う流れになるとすると、国力が上がるのを嫌がる国は多いだろう」
デヴリンが頷いた。
「流石に迷宮の中でハニトラはないだろうから誘拐一択だと思うが、流石に力づくで誘拐された国に技術供与する程俺はお人好しでもヘタレでもないつもりなんだけどなぁ」
誘拐を警戒する気持ちは分かるし、誘拐された招かれ人だろうが自殺さえしなければ戦争時に攻め込まれない効果はあるとはいえ、それだったら便利な魔道具の開発とは特に関係ない気がする。
「どっかの狂信者っぽいのが自分が天罰で死ぬことになるのを許容した上でリュウイチを暗殺する可能性もあるかもと最近国の上層部は警戒しているんだ。
国力を他より上げておくのを何よりも重要だと考えるような奴にまでリュウイチの技術の有用性と危険性が広まったら、誰かが暴走して自爆モドキな暗殺の手配をするかもってな」
デヴリンが言った。
「天罰ってそう言う誘導的な裏で糸を引く人間もまとめて罰するんじゃないのか?」
だからこそ国王まで死ぬ状況になるのだと思っていた。
まあ、国王が馬鹿正直に招かれ人を殺せと命じた場面も過去にはあったのだろうが。
「意図していれば確かにそうだが、例えばリュウイチの技術を警戒して対応策を色々と練っている間に、部下が勝手に暴走する可能性はあるだろう?
そう言う暴走に気付いて止めるような人員をチームに入れない程度で天罰の対象になるかどうかは誰にも分からないからなぁ」
デヴリンがため息を吐いた。
なるほど。
どの程度のラインがぎりぎりセーフなのか、失敗すると国のトップの死になるので、中々リサーチが進まないのだろう。
「だが話に聞いている仮想敵国の軍事大国ってそんな暴走して自爆テロも辞さない程の愛国者がそれ程居るのか?」
軍事大国と言うのはイメージとして攻める側だから守る方の手段に対して暴走するとはちょっと想像しにくいのだが。
「あの国も昔は小国だったのが今の国王になった後に方向転換して、ハニトラで招かれ人をゲットした後に一転して周囲を攻め込むようになったんだよ。
だから老人とか、老人から話を聞いているような爺さん子は負けたらまた昔のようになる!と無駄に危機感を持っている可能性はあるかも?」
デヴリンが言った。
「と言うか、国って軍事侵攻で大きく広がりすぎると次の世代かその次位には周囲から袋叩きに遭って縮小するか破滅する可能性が高そうな気がするが、此方の世界ではそうではないのか?」
昔の大英帝国の様に経済戦争的に影響圏を広げていくのはまだしも、ナポレオン的に一気に周囲を征服しようとすると周囲から袋叩きに遭う危険が高い様に思われるが。
「まあ、広がりすぎるとあちこちで内乱や独立運動が起きるから国ががたがたになるとは思うが、意外と時間が掛かることもあるからな。
取り敢えず現時点での問題は、あの軍事国家の前身の貧しい時代を知っている人間とか、そう言う人間から直に過去の苦しさを語られた世代がまだまだ若いのに居るから、ヴァサール王国の国力を引き上げすぎる技術を提供するリュウイチはマジで差し違えでも良いから殺そうと考える奴が出て来る可能性は否定できない点なんだよ」
肩を竦めながらデヴリンが言った。
なる程。
自分のやりたいことに便利な道具を、魔法陣と言う面白い新技術で造り上げることについつい夢中になって色々と造って国に開示してきたが、それが危険な被害妄想気味な連中を刺激するかも知れないと言う事らしい。
「……ちなみに飛行船とか色々な技術を提供したレティアーナ女史も暗殺されそうになったのか?」
彼女の技術の方が更に凄そうだが。
とは言え、全ての国が飛行船を持っているらしいので技術を完全にオープンに提供していたのかも知れないが。
「おう、あの女史は暗殺やら強姦未遂やら誘拐未遂やら、凄かったらしいぜ。
女だから力づくで言うことを利かせれば良いって考えるアホが多かったらしい」
デヴリンがあっさり頷いた。
……隆一が男で本当に幸運だったようだ。
軍部は男性が多いから、女性を守る方が大変そう




