1149.魅惑の素材(2)
「そう言えば、うちの庭ってどこかの庭師と契約しているのか?」
取り敢えず、庭の草を適当に鑑定しようと思って庭に出ようとした隆一はふと足を止めてザファードに尋ねた。
大して手を掛けていないし、花も特に植えるよう頼んではいないが、考えてみたら木がそれなりに植えてあるのだからあれの定期的な伐採程度はプロに頼んでいる可能性が高い。
としたら、隆一邸だって庭師がいそうだ。
イルベルトに頼むよりも、先に庭師に聞く方が植物に関して詳しそうだ。
それこそ毒草とか解毒剤になる草とかだったらイルベルトの方が知識があるかも知れないが。
「そりゃあ勿論。
元々この家の庭の世話をしていた庭師とその息子にそのまま頼んでいます。
王宮の方で調査したところ特に問題があるような付き合いはどこともなかったようなので」
ザファードが『何を今さら』と言いたげな顔で隆一に答えた。
「……家を買った時に内装の話はしたが、庭に関しては今の感じのままで良いっていっただけで俺は庭師と会ったことは無いよな?」
迷宮の地図や興味のある素材に関する鑑定結果などは忘れないものの人間に関する情報は忘却の彼方に消えやすい隆一ではあるが、会った事がある人間はそれ程忘れない。
通常は。
流石に自分の家のメンテに一役買っている人間を完全に忘れるとは思わないのだが、ちょっと自信が無かった隆一は眉を下げてザファードに尋ねた。
「時折伐採をしたり犬にほじくり返された草を植え替えたりしている人ですよね?」
ダーシュがちょっと首を傾げながら言う。
「実験室は庭が直接見える位置に窓が無いんだ」
庭で作業していても警備員の一人かと思っていた可能性も高いし。
「ちなみに今日は来ているのか?」
週何日来て隆一邸の庭の世話をしているのか不明だが、隆一邸だけではそこまで仕事はないだろうから専属ではないと思われるが。
「今日は来ませんが、明日は来る日の筈ですよ」
ザファードが応じる。
「ふむ。
じゃあ、明日来たらちょっと話を聞くことにしよう。
何か猫が好きな植物があるようだったらサンプルを持って来てくれないか、伝言をしておいてくれるか?」
キャットニップやマタタビのような植物がこちらに存在するならサンプルを持ってきてもらって、微量をチ〇ールもどきに足した時の反応を確認してみたい。
「分かりました、伝えておきましょう。
イルベルトは取り敢えず後回しにしますか?」
ザファードがメモを取りながら尋ねる。
「ああ、庭師との話し合いで思うようなのが見つからなかったらにしよう」
この国で知られていない、猫が夢中になるような珍しい植物があるのだったらそれを隠し味にしたら良いかも知れない。とは言え、知られていない植栽なんぞこちらで入手するのも育てるのも問題がありそうだから、取り敢えずは普通に庭師が知っている植物を使えないか、そちらを研究する方が良いだろう。
「じゃあ、取り敢えず庭に出ているから何か用があったらそっちに声を掛けてくれ」
ザファード達にそう告げて、隆一は庭に出た。
まずは雑草や適当な植栽を鑑定して猫に対して毒性があるかを鑑定でチェックできるか確認したい。
どうしても分からなければ手当たり次第に草を猫に食べさせて体調不良が起きるかを鑑定でモニターしていればある程度は分かるだろうが、流石にそんな事をしたら猫が可哀想だし、嫌われそうだ。
と言うか、猫に対する回復術はあまり使った経験がない。
怪我でなく毒物被害の治療というのは人間に対してもあまりやっていないので、人間相手にちょっと練習してから猫にも試した方が、変な物を猫が誤食した時に慌てないで済むかもしれない。
なんと言っても人間よりも猫の方が体積が小さいのだ。
微量な毒でも猫だったら致命的な結果になりかねない。
……先ずは毒消し草で作った解毒剤が猫にも効果があるのか、先に試すべきかもしれない。
毒消し草から作った解毒剤が猫の草への反応に効くのかが問題ですねぇ




