1148.魅惑の素材
「料理とか食材とか猫の餌とかって特許を取れるのか?」
エフゲルトがまとめていたチ〇ールもどきの試食結果の報告を読み終わった隆一は書斎に行き、ダーシュに尋ねた。
「料理の特許は難しいですね。
特殊な味付けに必要な調味料にミックス詳細や酵母の製造方法は特許を申請出来ますが、普通に街中で買える食材を使った調理方法の工夫は余程革新的で今迄絶対になかった様な調理方法でない限り、特許対象として認められません」
ダーシュが答えた。
「革新的だったら良いのか。
じゃあ、革新的に猫に愛される餌は?」
あのチ〇ールもどきも素材はごく普通な食材だし、造り方もそれほど革新的ではない。
革新的と言えるのは、猫に好かれるあの食感程度だろう。
普通だったら態々猫の餌をペースト状にする手間をかける飼い主は居ないと思われる。
とは言え、病気だったり高齢な猫の餌だったらああいう形にした飼い主が過去に居ても不思議はないが。
「猫の餌で特許と言うのは聞いたことがありませんねぇ」
ちょっと笑いを堪えるような顔をしながらダーシュが言った。
「何故そんなに猫の餌に拘っているんですか?
それこそどうしてもと言うのだったら『招かれ人の開発した猫の餌!』とでも言って売り出せば普通の工房には真似が出来ませんよ?」
ザファードが提案してきた。
「いや、流石にそこまで自分を犠牲にする気は無いな。
単に製造販売を任せる工房がちゃんと稼げて事業を続けられるように真似をされない手を何か打てないかと思っただけなんだ。
特許で保護できないとなったら、何か想定外な材料を混ぜて他の後追い競合者より猫に好まれる味にしないとダメか」
隆一が腕を組んで考え込む。
「別にそこまで儲けなくてもいいのでは?
単にずっと製造を続けて貰いたいというだけだったら、リュウイチ殿が多少出資すれば続けますよ?」
ダーシュが指摘する。
「まあ、それも有りだが、出来れば自力で続けて欲しいんだよなぁ……。
取り敢えず、何か人が思いつかないような隠し味を加えられないか、実験してみるか」
たしか、マタタビとかキャットニップやミントは猫に好かれるらしいが、一応毒ではない筈。
匂いが微かにつく程度の微量にしておいて、変な影響がないかを確かめたら良いかも知れない。
と言うか、それらの植物がこちらの世界にあるのかを確認する必要があるが。
マタタビはまだしも、キャットニップやミントは物凄く簡単にガンガン増える雑草もどきだから植木鉢で育てないと庭が占領されかねないぐらいしぶとい草だと聞いた気がするから、最初に一株入手できれば微量に足す程度は難しくないだろう。
多分。
「マタタビってどこかで手に入らないかな?
キャットニップやミントでも良いが」
ミントは種類が多すぎて下手をするとどれかは猫に害がある種類かもしれないから、普通に猫用のオモチャに入れて販売されていたマタタビかキャットニップが良いのだが。
隆一の質問にダーシュとザファードが揃って首を傾げた。
「『猫が好きな草』というイメージは伝わりましたが、現物を知らないせいか何なのか分かりませんね。
農家か植物学者にでも確認した方が良いかも知れません」
ザファードが応じる。
どうやら異世界言語理解の神通力も、知らない植物に関しては通じないらしい。
「ふむ。
イルベルトあたりに誰か植物学者を知らないか、聞いてみるか。
農家にも知り合いがいるかなぁ、彼?」
顔は広そうだが、一応貴族の一員だと思われる彼が農家にも知り合いがいるのか、微妙に怪しい気がする。
まあ、貴族なら領地があってそこの農民とやり取りがある可能性もあるが。
「彼に呼び出しを掛けますか?」
ザファードが尋ねる。
「ああ、頼む」
こちらの世界のマタタビやキャットニップやミントを猫に食べさせても本当に安全なのか、猫を意識しながら鑑定したら分かるのかちょっと心配でもある。
取り敢えず、待っている間に庭に生えている植物を片っ端から鑑定して猫に対する効果を読み取れないか、試してみることにした隆一だった。
まあ、工房の裏でマタタビやキャットニップを大量に育てていたらそのうちバレて真似されるでしょうけどねぇ




