1146.次は(2)
「ちなみにファルダミノはヴァーレみたいに中の魔物が偏っていないから、実質5階以下から人を締め出すような攻略は出来ないと思う」
行き先の迷宮が決まったところで、ダルディールが指摘した。
「あそこは王都迷宮の中型版と言う感じですからね。
コボルトが居るのは何階層目でしたっけ?」
フリオスがため息を吐きながら言った。
「キュルトが詳しいだろうから、あいつに聞こうぜ。
上手くいけば、各階層の地図も持っているかもだし」
デヴリンが提案する。
「王都の探索者ギルドでは地方の迷宮の地図は保管していないのか?」
確かに誘拐防止だけでなく、変な政争やお家騒動にも巻き込まれないように隆一が行くことを事前に知らせないでおきたい。そう考えると迂闊に現地の探索者ギルドから迷宮の地図を取り寄せるのは不味いだろうが、ヴァサール王国の探索者ギルド本部的な王都のギルドにそう言った情報が集められていないのはちょっと意外だ。
「あるが……王都のギルド王国本部にもあの地方出身の人間は居るから、地図の写しを頼んだら情報が流れる可能性がそれなりにあるんだ。
だから既に地図を持っている信頼出来る人間がいるなら、そちらから入手する方が無難だと思うよ」
ダルディールがちょっとすまなそうに答えた。
「あそこは貴族だと王都で学院に通う際に周囲から微妙に遠巻きにされるせいで、領主に近い家柄出身の間での結束が意外と強いんだ。
探索者になるようなのは貴族なんて意識のない連中も多いんだが、地縁を使ってギルド職員になった後に他の支部や本部へ移動したようなのは、下手すると未だに最初に助けて貰った領主側の貴族に情報を流している可能性がある」
デヴリンが顔をしかめながら言った。
そう言えば以前あの地方にマッピング行脚で寄った際に、飛び降り部隊のキュルトがそんなことを言っていたか。
庶子によるお家乗っ取り疑惑のせいで国内貴族家から遠巻きにされていると。
下手をしたら何百年も前の話だが、過去に忌避されてその地域の貴族たちだけで固まったせいで変な地域特有な常識が形成されてしまい、他の地域の貴族とイマイチ合わなくなってしまったのかも知れない。
貴族たるもの、戦闘能力を保持すべしというヴァサール王国の常識を当主からして真っ向から無視しているらしいし。
長年そんな風になっていてそれが問題なら、王都の貴族の方で学院に来る次世代を洗脳……というか一般常識に染めるよう、努力すれば良いだろうにと思う隆一だった。
「取り敢えず、キュルトから話を聞くのと、人員の手配、地図の入手などに少し時間が掛かりますので、ファルダミノへ向かうのは5日後で良いですか?」
フリオスが尋ねた。
「ああ、構わない。
じゃあ、明後日あたりにまた王都迷宮に行って良いか?」
デヴリンとダルディールに向けて隆一が尋ねた。
近所の猫飼い主たちにチ〇ールもどきの試食の結果を聞いて回る必要もあるが、流石に5日間も空くとなるとちょっと暇になる。
「おう、構わないぜ。
ちなみにヴァーレのコボルトに関して、何か想定外な事は分かったか?」
デヴリンが聞いた。
「群れの数に対して、元となる個体プロトタイプの数は王都迷宮よりも少ないようだった。
ただし王都と違う個体が3体程いたので、もう一度王都迷宮のコボルトを一通り倒し巻くって歯形を取ってそちらが出てこなかったのが偶然なのか、本当に王都に居ないのかを確認してみたい」
まあ、絶対に居ないかどうかなんて言うのは数回殲滅する程度では確認は取れないが、統計的に有意な『無いと思われる』程度の結果で構わない。
「そのうちダンジョンマスターが何だってこうもコボルトが殺されまくるんだろうって首をひねりそうだな。
私も明後日に迷宮探索で構わないよ」
軽く笑いながらダルディールも付け加える。
「確かに、倒された魔物の統計とかを取っていたら、ダンジョンマスターが首を傾げているかもだな」
タブレット的な端末の前で魔物の損傷率を確認しているダンジョンマスターが首をひねっている姿は中々面白そうだ。
「あれ〜?損傷率がコボルトだけ跳ね上がってる。
何か新しい利用方法でも発見されたのかな……?」
By ダンジョンマスター




