1142.ヴァーレ迷宮(8)
只管退屈な迷宮を順路通りに歩いて10階まで降りてきた隆一達は、そこで再び後続組が来るのを待つために休憩を取ることになった。
先行組が最短ルート近辺の魔物を倒しているせいと言うのもあるのだろうが、結局8階で森狼を2体、10階に来て突進牛を1体デヴリンが斬撃で通りがかりに倒した以外、魔物との遭遇すら殆ど無かった。
本気で安全路線を突き詰めた感じな迷宮である。
「ある意味、ここまで安全な上に探索者も殆どいないとなったら、俺に魔物を倒させて基礎能力値を上げさせるのを王都迷宮でやるよりもここでやる方が更に安全性が高かったんじゃないか?」
水筒から水を飲みながらフリオスに尋ねる。
まあ、考えてみたら隆一の迷宮に入る際の詳細を決めたのはフリオスではなくもっと上の人間なのだろうが。
「ヴァーレの街に長期間住んでいただくのは流石にちょっと危険かと上が判断したのでしょうね」
フリオスが応じる。
「第一、俺とダルディールが居れば王都迷宮でも最下層まで行かない限り安全は確保できるからな。
俺たちでもダメな位言うことを聞かないアホだった場合はもっと早くに迷宮入りを中断させるか、それこそこっちのヴァーレの方に一個小隊でも付けて安全に接待探索をやって貰ったかも知れないが」
デヴリンが付け足す。
「あまり安全過ぎる状況しか見せないと、変に安心感を持って危険なところへ突っ込んでいく可能性もあるだろう?
だから貴族のお坊ちゃまとかでも安全なヴァーレではなく、現実的な王都迷宮で探索させることが推奨されているんだ。
それこそ体が不自由で基礎能力値をどうしても上げる必要があるが戦闘は殆ど出来ないような人がヴァーレを使う程度だね」
ダルディールが更にヴァサール王国内でのヴァーレ迷宮の扱いを隆一に教えてくれた。
「なるほど、アホに世の中を舐めさせないように、なまじ安全な迷宮の事は知らせない方がいいのか」
流石に招かれ人の残りの一生50年かそこらをずっと過保護なまでに安全に守り続けるのは国とっても負担が大きいし、招かれ人側の精神的閉塞感も強くなるだろう。
そう考えると、此方の世界の現実をちゃんと理解して危険な場所には近づかないか、近づくならばそれに対処できるだけの能力なりヘルプなりを準備して行くようにきっちり教育していくポリシーなのだろう。
中々この国の上層部はしっかりきちんとしている感じだ。
ヴァーレ迷宮のロマンの無さに関して雑談していたら、後続隊2組が追いついてきた。
「誰か後から続いて来ていたか?」
デヴリンが尋ねる。
「いえ、暫く待っていましたが、誰も追って来ていない様ですね。
やたらと魔物が少なくてちょっと不安を感じましたが」
若い方の騎士が答える。
「先行組がかなり倒している様だからな。
ここの迷宮ではこのぐらいでも特に不自然ではないと思う。
上の3階層での魔物のリポップ速度は通常通りらしいし」
デヴリンが応じた。
「迷宮の魔物が少なすぎると何かヤバい事の前触れな可能性もあるのか?」
ラノベの場合だったら外ならばそれこそゴブリンやオークの群れが増えすぎて周囲の獲物を全て食べてしまったとか、強すぎる魔物が出てきたせいで他の魔物が逃げたか息をひそめて隠れているかといったような設定はあるが。
迷宮の場合、どうなのだろうか?
「それこそ大繁殖が起きる直前でもない限り他の魔物が階層を越えて上がってくることは無いし、そう言う場合は上層部でもっと魔物が増えてリポップの速度も早くなる。
この迷宮は元々上の3階層にリソースを取られ過ぎて、他の階層のリポップが遅い傾向があるし魔物自体の数も少ないから、こんなもんだろ」
デヴリンがあっさり応じた。
マジでどうやらヴァーレ迷宮は木材・石材・鉄を得るための迷宮らしい。
「何か迷宮内で実験をしたい時には王都迷宮よりもこっちの方が安全そうだな。
迷宮内で研究施設みたいのを作るなんて話が出てきたら、その点を覚えておくようにするよ。
そろそろ下に降りて良いか?」
この分だったら20階まで問題なく辿り着き、遅いランチをあっちで食べてさっさと歯形取りに取り掛かれそうだ。
迷宮内研究所の候補地w




