1138.ヴァーレ迷宮(4)
「相変わらず、変な見た目な魔物だな」
ヴァーレ迷宮にダルディールとデヴリン及びフリオスと一緒に入った隆一は1階の魔物を見ながら呟いた。
この素材としての実用性だけを優先したとしか思えない、木材に多少葉が生えた程度に見えるトレントは何度見ても……変だ。
「王都迷宮の魔物配置に味をしめて更に実用性最重視になったヴァサール辺境伯の要求に、ダンジョンマスターが少し嫌味を込めて魔物の亜種として配置したって話ですね。
ヴァサール辺境伯もちょっとあれを見て後悔をしたからその後の迷宮での要求はもう少し妥協したとか」
フリオスが笑いながら隆一に教えた。
ギリギリまで素材採取の利便性を追求した要求に応じると、迷宮のロマンが切り捨てられてしまうというのをダンジョンマスターがやって見せたというところなのだろうか?
王都迷宮とヴァーレ迷宮の魔物のラインアップを考案した頭脳派な人間はヴァーレ迷宮の魔物モドキにも不満を感じなかった可能性も高そうだが。
ぞろぞろと騎士が迷宮に入って行ったら目立つので、今日は型落ち版が市場にも下げ渡されている地味で実用的な装備を付けた騎士8人が先に朝食を食べて4人ずつのパーティになってヴァーレ迷宮の中に入り、20階までのフロアに居る探索者を確認しながら階段への通路傍の魔物を間引いていっている筈だ。
野営地に残るのは6人とし、5階、10階、15階の転移門に2人ずつ人を配置して後から入ってくる人間がいないか目を光らせる為に隆一達から多少遅れて残りの騎士達が入って来る予定になっており、彼らとは5階の転移門の所で休憩がてら合流する手はずになっている。
想定外な人間による急襲さえ受けなければデヴリンとダルディールだけでもヴァーレ迷宮の20階まで安全に隆一を引率できるとのことなので、フリオスがもしもの時の保険として同行。
20階までの地図は既に隆一が記憶してあるので、これで一番安全に素早く20階まで降りられる想定だ。
「ヴァーレで初心者から卒業した探索者が他の迷宮に行ったら、びっくりするんじゃないか?」
見た目が違いすぎるし、なんと言っても脅威度が全然違うだろう。
「ヴァーレ迷宮で20階まで行ったら一応王都迷宮で銅ランク扱いだな。
10階だったら鉄ランクだから、王都迷宮とこっちだと倍ぐらい階層による危険度が違うと大雑把に考えられている。
ヴァーレ迷宮しか経験していない探索者が他の迷宮に来た時は、さりげなく初心者用の簡単な依頼を受けさせて一般的な迷宮に慣れさせ、他の探索者の話を聞く機会を設けるように探索者ギルドの方もしているんだ」
ダルディールが言った。
なるほど、探索者ギルドもそこら辺は注意をしているらしい。
と言うか、ある意味ヴァーレ迷宮の3階までしか行かない人間は探索者と言うべき存在ではない気がした隆一だった。
流石にそれを言ったらプライドが傷つけられる人間もいるかも知れないので口には出さないが。
「ま、ヴァーレ迷宮は死にたくない人間か、ちゃんと老後の為に金をためておかなかったポンコツ高齢者探索者が行くところなのさ。
ある程度考える頭があれば、あれが他の迷宮と違うことぐらい分かってるだろ」
デヴリンがあっさり切り捨てた。
丁度2階への階段を降りている最中だったので近くに誰も居なかったが、中々厳しい見方だ。
だがまあ、あの実質多少動く木材でしかないトレントの亜種や、達磨もどきゴーレムだけを倒して探索者だと主張されても、他の探索者的には仲間だと認めるのはかなり無理がありそうではある。
「どうせだったらゴーレムなんて形にしないで、ガンガン掘って鉱石を取り出す形にできなかったのかね?」
3階への最短ルートを歩きながら隆一が尋ねる。
「ごく稀に迷宮内で鉱石を採取できる場所もあるが、そう言うところの鉱石のリポップ率や純度はゴーレムよりもぐっと下がるんだ。
だから安全性だけならまだしも素材入手の効率性の考えると魔物を倒すという形にした方が良いらしい」
ダルディールが説明する。
『倒す』と言う形にしないと大量の資源は与えないという事なのか。
イマイチこの世界の神様の迷宮への拘りが分からない隆一だった。
迷宮の魔物と戦わせることで、同胞に対する攻撃性を下げられると期待しているのだろうか?
それでも国同士の戦いや、山賊になって一般人を襲い掛かる無法者は除外できていないようだが。
まあ、もしかしたら地球よりは人間による人間の殺害率が低いのかも?
資料が無いので検証のしようが無いが。
戦争も召喚の神託でかなり抑えられるのだから、この世界の人間による人間の殺戮は近代兵器が開発される前と比べても、地球より少ないでしょうね。




