1136.ヴァーレ迷宮(2)
「へぇぇ、これが新型飛行機?」
護衛の騎士たちが乗る飛行用の新型機を見て隆一が尋ねる。
隆一の提案通り、4人乗り以下の隆一が最初に作った小型機は飛行具、それ以上の中型機は飛行機、昔からある超大型は飛行船と呼ぶようになったと言われている。
「ええ、今回のヴァーレ行きにはこの新型飛行機の試用も含めることにしています。
一応フル装備の騎士が12人乗れる仕様なのですが野営の道具とかもあるので10人にして2機飛ばします」
フリオスが説明してくれた。
なる程。
フル装備の騎士となったら普通の手荷物程度の一般人が乗るのとでは大分と重量が違いそうだし、席のスペースも違うだろう。
と言うか、中を覗いてみたら座席が個々にあるのではなく、ベンチ式な席が機体の側面に沿った形で縦に二つ設置してあった。
なるほど、アメリカのドラマなんかで時々見かけた軍の輸送機っぽい形のようだ。
確かに装備の確認とかに大きなスペースが必要かもしれないことを考えると、ファーストクラス並みなスペースがあるにしても横向きに席を並べるのは軍用機にはあまり実用的ではないのだろう。
お偉いさんも一緒に飛ぶことになった場合はどうするのかちょっと疑問を感じるが。
「そっちの新型飛行機も乗らせてもらえるかな?」
一応新型飛行機の試用も兼ねているという事なので往路では隆一は自分の飛行具にデヴリン、ダルディールとフリオスを乗せて飛ぶことになっているが、復路は安全性が確認できているという事で新型飛行機に乗ってみたい。
どうせ隆一の護衛に使う前に何度も試乗しているだろうし。
「安定性が良さそうだったら考えましょう」
フリオスがにっこり笑いながら答えた。
「頼んだよ。
ちなみに20人ってちょっと多くないか?」
以前隆一がマッピング兼未発見迷宮探しに動き回った時だってそこまで人数は多くなかった筈だが。
「緩いと有名なヴァーレとは言え、20階まで降りるのですから一応多めに護衛を付けないと上が納得しないので。
取り敢えず10人迷宮内まで同行して、残りの10人はもしもの時の緊急救助用及び野営地と飛行機・飛行具の護衛と言う形になります」
フリオスが説明した。
「迷宮内で10人もおまけをつけたら邪魔なだけだし人目を引くと言ったんだがなぁ。
まあ、先に何人か行かして露払いしておき、同行している者も途中の階段を塞ぐ形で配置していったら後からついてくる人間を把握できるから、無駄にはならんだろう」
デヴリンが付け足す。
「露払い?」
「今回は迷宮の探索や基礎能力値を上げることが目的ではなく、20階のコボルトの群れから歯形を取ることが狙いなんだろう?20階に着くまでの戦闘は出来るだけ減らして早く進めるようにしないと、行きに転移門が使えないとなると1日で全部回り切れないよ」
ダルディールが指摘した。
「そう言えば、転移門が使えないから20階まで階段を見つけて全路歩いて行かなきゃいけないのか」
最近は転移門ありの便利な探索ばかりだったから、あれの無い行動を考えていなかった隆一だった。
「そう。
一々魔物を倒していたら20階まで降りて行くのにそれこそ1日かかる。
帰りは転移門で帰れるから一瞬とは言え、20階に辿り着くのが目的なんじゃなくて、コボルトを倒しまくるのが目的だろう?
倒せた数が少なすぎた場合は護衛の騎士何人かに夜を通して残りのコボルトを倒させるのもありだが」
デヴリンが言った。
「ええ、どうせだったらここで騎士たちに歯形の取り方を教えて貰って、他の迷宮での歯形取りを任せるのも良いですよね」
にこやかにフリオスが提案する。
歯形取りは探索者ギルドに依頼を出すつもりだったが、歯形の取り方を教える相手を王都まで呼びつけるのも難しいかもと思っていた。騎士団が飛行機の試乗テストか何かのついでにやってくれるのだったらそれも有りかも知れない。
折角王都以外の迷宮を探索する口実になるので、隆一としては全部譲るつもりは無いが。
「そうだな、少なくともペルワッツ迷宮は入らないでくれって話だからそこのコボルトの群れを頼むのに、騎士団がやってくれるんだったらやり方を説明するいい機会かもしれない」
流石に副団長のデヴリンに行って貰うのは微妙だし。
「そうですね!」
フリオスが力強く頷いた。
どうやらペルワッツ以外の迷宮に行くのも交渉が中々大変そうだ。
一応20階までの地図はダルディール経由で入手してあります




