1135.ヴァーレ迷宮

「ヴァーレ迷宮にコボルトは出るんだよな？」

近所の人たちとのバーベキューが無事終わり、チ〇ールもどきの試食のお願いと供給手配も出来たので、今日は王都外の迷宮へ行くために第二騎士団の拠点に来ている隆一だった。

「ああ。ホブゴブリンはいないけどな。

ただ、あそこは上の方の階層の木材と石材と鉄に資源の大部分を費やしている感じな迷宮だからなぁ。

大型迷宮の20階とは言え、王都迷宮の13階にいる群れよりも弱いかも」

ダルディールが言った。

「確かにあの迷宮はマジで木材と石材と鉄を集める為の迷宮って感じだったな。

ある意味、小型迷宮でやった方が良かったんじゃないのかね？」

大型迷宮というのはそれはそれで資源なのに、上の3階分しか殆ど探索者が入っていないと聞いた気がする。

「小型迷宮じゃあ上層であろうとあれほどの量の魔物の資源を集めていたらそのうち迷宮が枯渇して消えちまうよ。

大型迷宮だからこそ、あれだけ資源を取り出しても枯渇しないんだ。

代りに下の方の魔物が弱っちくなるが」

デヴリンが応じる。

「……下の方が弱いとなったら、迷宮を再攻略してダンジョンマスターに会うのも難しくない？」

迷宮のラインアップに口を出す気はないが、比較的簡単に大型ダンジョンを攻略してダンジョンマスターに会えたら、欲しい神具もしくは神との対話が出来そうだが。

「あの迷宮は国の戦略的資源ということで攻略は禁じられている。

20階までは普通に入れるが、それより下に入るのは年に一回第二騎士団が高ランク探索者と一緒に行って異変が起きていないか確認する時だけだ。

それ以外の時期には騎士団と探索者ギルドの人間が21階に続く階段のところで見張っているから降りられない」

デヴリンが言った。

王都迷宮の方が王都の食糧を賄うという意味で重要そうな感じだが、ある意味無茶な資源の取り出しをしていないせいで最下層の攻略が難しすぎてストップは掛けていない……というか掛けられないのだろう。

その点、ヴァーレ迷宮は攻略できかねないから武力的に禁止しているらしい。

「簡単に最下層まで行けるなら、定期的にダンジョンマスターと戦ってエリクサーを入手すれば良いのに」

四肢欠損に使えるような正規エリクサーでなくても、下級エリクサーを取ってくるだけで難病になった人間が毎年一人（かもっと？）救われるのだからそれなりに価値があると思うが。

「昔はそうやっていたそうだが、300年ぐらい前にダンジョンマスターにこのままやっていたらあと10年程度で迷宮が枯渇して消えると警告されたらしい。

だから今では年に一回確認に行く際についでにダンジョンマスターにエリクサーを取れないか聞いて、大丈夫そうだったら戦う感じなんだ」

ダルディールが言った。

なんと。

ドロップアイテムを要求しても大丈夫か確認してから戦うダンジョンのラスボス。

なんとも人間の要求に沿いすぎていて、ダンジョンというイメージが崩れる。

「どのくらいの頻度でエリクサーを収穫できるんだ？」

隆一が尋ねる。

「上層での収穫次第だが……最近は50年に一度程度だと聞く」

デヴリンが微妙な表情で言った。

なる程。

それでは単なる副団長なデヴリンに下級であろうとエリクサーが回ってくることは確実になかったのだろう。

「ドロップ無しで良いからダンジョンマスターを倒して神との対話と頼むって言うのは？」

特に欲しいものはないのだ。

それこそ世界の仕組みとか魔術についてもっと詳しい情報を貰う為にダンジョンマスタ―を倒して答えを貰うのは駄目なのだろうか。

「ダンジョンマスターはドロップアイテムよりもリソースを使うらしいから」

笑いながらデヴリンが首を横に振った。

確かに、ラスボスランクの魔物（ダンジョンマスターを魔物と言っていいのか微妙だが）は人間を一人だけ治せるエリクサーよりもリソースを使いそうだ。

「残念だ。

まあ、それはさておき。

コボルトを殺しまくるのは良いんだな？」

フロア全部のコボルトの歯形を確認したい。

「ああ、何回も周回するのは遠慮した方が良いだろうが、1回ならば下層の魔物が変に強くなりすぎなくて丁度いいだろうってさ」

デヴリンが答えた。

既にそこら辺は確認してあるらしい。

「リュウイチ殿の到来の情報を出来るだけ広めないために、午後にヴァーレの街の外へ飛んで一晩野営、明日の朝から丸一日ヴァーレ迷宮に入ってコボルトを狩りつくし、そのまま王都に帰ってくるという行程にしようと思いますが、それで大丈夫ですか？」

フリオスが手元の書類を確認しながら尋ねた。

2日連続で迷宮に入ったり、野営したりすることで隆一の存在を知った人間に襲撃されるリスクを出来る限り減らしたいようだ。

そこまで隆一を狙う人間が本当にいるのかは不明だが、隆一の好奇心だけで強行される遠出なので、出来るだけ護衛側がやりやすいように動くべきだろう。

「ああ、構わない。

よろしく」