1134.近所付き合い（6）

カッシュ夫人はやはり先ほど見かけたロールケーキ強奪夫人（？）だった。

デリタフと言うのは猫が既にデブとの話だが本人はひょろりとして若い男性だ。

平民としては富裕層が住んでいるこの地域に家を持つという事は親から財産を相続したのか、それとも何か非常に金になるギフト持ちなのだろうか？

そこら辺に多少は興味を感じたものの、隆一は何食わぬ顔をして二人に挨拶をするだけに抑えた。

「猫のおやつ、ですの？

確かにキャラちゃんに喜ばれるおやつがあるのでしたら嬉しいですが、試食と言う事は試しに作った物なのですよね？

大丈夫ですの？」

カッシュ夫人がちょっと不安げに聞いてきた。

「中身はゼラチンと肉と肉の骨から取った出汁だけなので、危険性はない筈。

一応ウチの猫たちにも素材の組み合わせを色々と変えつつ2ヶ月近くあげているが、ちょっと愛想がよくなった意外に特に変化はないから大丈夫だと思う」

隆一邸の猫たちにとっては今までアリスナがメインの食事を持ってくる担当と思われていたので、隆一が近づいても気が向いたときしか相手にしてくれなかったが、おやつの試食をし始めてからは、自分から近付いて来てスリスリする事が増えた。

おやつが無いと分かった途端にぷいっと離れていくことが多いが。そのまま撫でさせてくれることもあるので以前よりは関係が良くなったと言っても良いだろう。

「ちなみに試食させて何を確認したいんだ？

運動能力が上がったかとか、賢くなったかとかは調べようがないと思うぞ？」

デリタフが尋ねる。

おや？と隆一が一瞬意外感を感じた。

微妙に発音が貴族階級のそれな気がしないでもないので、もしかして貴族の子息なのかも知れない。

考えてみたら、今住んでいる隆一邸だって元は貴族だった一族の持ち物だったのだ。

家を継がない息子が平民の富裕層が住む場所に住居を構えていても不思議はない。

オルベンがちょっと上から目線な口調だったので平民だと思っていたが、考えてみたらオルベンがどんな立場なのかも知らないので、それからデリタフの立場を推測するのは無理があったか。

「いや、そんな凄い効能を持たせようとなんて最初から思っていない。

単に、何種類かの肉の部位や素材違いのミックスを、どれが特に好かれるか、もしくは嫌われるかの確認をしたいだけなんだ。

ウチの猫は取り敢えずどれもそれなりに好きなようなのだが、他の猫もそうなのかを確認したくてね」

と言うか、考えてみたら日本でもチ〇ール売り場はそれこそ棚一面をカバーするぐらいに色々と種類があったが、猫にとっての麻薬なのではという疑惑があったあれもそれなりに猫の好みによって嫌われる味があったのだろうか？

猫を飼ったことが無かった隆一としてはそこら辺に関して詳しくない。

「ふむ。

犬と違って猫はそれなりにえり好みするからな。

確かにどれが好きかとか嫌われるかを確認するのは良いかも知れない。

ちなみに、これはウチの猫が気に入った場合には継続的に入手できるのかね？」

オルベンが尋ねた。

「知り合いの工房にこれの生産を委託するつもりだから、製造ラインに乗る味だったら入手は問題ないと思う。

嫌う猫が多い味は作らないかもだが」

どの程度売れるかは、口コミの広がり具合によるだろう。最初はそれ程大量生産しないだろうから赤字生産になるかも知れないが、それは隆一が経営支援すれば良いので、試食に協力してくれた近所の人間には材料費プラス製造料で売っても構わないだろう。

流石に王都外の迷宮回りを始める前にそこまで話を進めるのは難しいので、暫くはエフゲルトとアリスナに家で作って貰うことになるが。

「分かった。

まあ、猫が美味しいと感じるようだったら試食させてもいい。何か注意事項は？」

デリタフが聞く。

「このおやつだけで猫の食事になる訳ではないから、普通に与える餌を多少減らして日中のおやつにあげる程度にしてくれ。

幾ら欲しがっても餌の代わりにあげたり、餌を欲しがらなくなる程無制限に食べさせない方が良い」

というか、日本だった猫のフードは総合栄養食と記されているのを買えば栄養面の問題も無かった筈だが、此方では適当に肉をあげているが栄養バランス的にあれで良いのだろうか？

実は昔の日本的なご飯にみそ汁を掛けたような猫まんまは栄養が足りないというのは聞いた記憶があるが、どんな餌を出せば栄養バランスが正しいのかは隆一も知らず、アリスナに頼っていたのだが……考えてみたら、そこら辺を気にしていなかった。

まあ、猫は完全肉食動物だという話だし昔は鼠だけを捕まえて食べていても健康に生きていけていたらしいから、肉類を沢山出せば良いのだと期待しておこう。

と言うか、だとしたら基本的に肉とゼラチンでつくったおやつも猫にとっては食事代わりになる食材なのか？？

ふとその点も気になった隆一だが、取り敢えずそ知らぬふりをしておくことにした。

それなりに高くつくのだ。

あれで猫の全食事を賄おうとしたら高くなりすぎるだろう。