1133.近所付き合い(5)
「このおやつは骨からとった出汁パウダーを使ったスープとゼラチンをミンチにした肉に混ぜてペースト状にした物なんだ。
牛と豚由来の魔物の肉を使って大きく分けて2種類作っている」
流石に穴兎を使うのは人間に食べられてしまう可能性が高いのではないかとエフゲルトに指摘され、アリスナにも十分可能性はあると頷かれたので止めた。
日本でも猫缶を食べる飼い主が居るという都市伝説があった気もするので、穴兎はちょっと無駄に高級過ぎるだろう。
「出汁??
猫用のおやつに?」
説明を受けた老人が目を丸くする。
どうやら出汁パウダーの段階でかなり贅沢なようだが。
「人間の料理用に出汁を取ってパウダーにする商売を知り合いが始めることになってね。
その一部を猫のおやつ用に入手することにしたんだ」
と言うか、猫のおやつ用に入手するコストを下げるために大量生産させて人間にも売るというのが実際の流れなのだが、それを馬鹿正直に言う必要はないだろう。
「とんでもなく贅沢なおやつになりそうだが……そんなのを食べさせたら、食事を食べなくなってしまうのではないかね?」
老人(オルベンと言う名前らしい)が呆れたように笑いながら言った。
「おやつにあげる量を制限すれば、大丈夫。
昼間に遊ぶ際にでも少量をあげる程度にすれば、ちゃんと朝晩の食事は食べるが……確かに、お代わりのおねだりを断れる精神力が無いなら危険かも知れないな」
日本でもおねだりを断れなくて餌をやりすぎ、猫を糖尿病持ちのデブにしてしまう飼い主は多い様だった。
まあ、此方の世界なら回復師に金を払って治療すれば糖尿病もかなり進行を遅らせたり合併症を完治させたりできるらしいが。
とは言え神殿の回復師が人間をよそに猫の糖尿病に魔力を費やしてくれるか、微妙そうな気もする。
回復師は神殿に属している人間が多いらしいが、民間でもっとビジネスライクにやっている人間もいるらしいので、そちらを金で釣る方が早そうだ。
「ううむ……。
儂は多分大丈夫だと思うが、妻には知らせない方が良いかも知れないなぁ。
ちなみにそれを食べさせて何をして欲しいんじゃ?
もしかして健康上の被害が出るかも知れないなら、悪いが遠慮させてもらうぞ」
オルベンが顔をしかめながら言った。
「いや、健康上の被害はないと思うし、もしも体調不良になったら食べさせ過ぎとでもいうんじゃない限り俺が責任をもって治療しよう。
一応回復師として一人前と神殿でも認めて貰っている。
試食で試して欲しいのは、何種類かあるおやつの試作品のうち、どれが一番好まれるかを確認して欲しいんだ。
どれが一番食いつきが良かったか、またどれか食べないのがあったかと言ったところだな」
ある意味、好みに個体差があるのかも知りたいところだし。
アルーナとセリスは大体良い感じにどれでもがっつり食べるし、食べる順番やがっつき度的に見るとどれも極端に差がないようなのだが、他の家の猫だとどうなるのかを確認したい。
「うむ。
まあ、その程度なら良いだろう。
ちなみに他の家の猫にも協力は頼まんのか?」
重々しく頷いたあと、オルベンが尋ねた。
「頼む予定だが、誰が猫を飼っているのか微妙に不明でね」
ロールケーキ好きな女性にそろそろ声を掛けても良いかも知れないが、ついでにオルベンに紹介してもらう方が無難かも知れない。
「カッシュ夫人の所は猫が多いぞ。
あとはデリタフのところも溺愛しているのが居るが……あそこはおねだりを断れないかも知れないから誘わない方が良いか?」
オルベンがちょっと悩まし気に腕を組んで考え込んだ。
「両方にちょっと声を掛けて尋るだけ尋ねてみようか」
ある意味、既に太っている猫がおやつにどう反応するかも知っておいて良いかも知れないし。
なんだったらダイエット用にカロリー値の低いおやつを作れないか、そのうち研究しても良いかも知れない。
「そうじゃの!
どうせデリタフの所の猫は既に太っておるのじゃ。
これ以上太りようがないだろうし、なんだったらおやつでつって運動させられるかもだしの」
オルベンが頷きながら客の方へ動き始めた。
おやつで釣って運動させるのはせいぜいちょっと棚の上に動く様誘導する程度しか出来ない気もするが……まあ、何とかなるだろう。
太った猫のダイエットって難しそう。
猫って基本的に食っちゃ寝〜ですもんねぇ。




