1132.近所付き合い(4)
先日の知り合いを招いたバーベキューを終え、特に問題が無かったので今度は近所の隣人たち(猫持ち重視)をバーベキューに招いた。
数日の間がある間に、ほぼ完全に食い尽くされた穴兎の在庫を再度積み増し、ついでに胡桃や栗、フルーツ類も大量にゲットしてタルニーナにロールケーキやパイも頼んでダルディールに持ってきてもらった。
一応ダルディールとデヴリンは追加的な護衛として今日も来ている。
デヴリンに関してはフリオスにチクチクと嫉妬のコメントをここ数日貰っていたらしく、ダルガスを捕まえてかなり大量な穴兎の燻製肉を差し入れ用に購入していた。
「これは素晴らしい!!
昔は穴兎と言えば高級レストランでごく稀に入荷するのに運良く出会えれば食べられる程度で、後はどこぞの見栄っ張りな貴族の晩餐会に呼ばれでもしなければ縁が無かったものです。
最近は燻製肉が出回るようになってある程度は食べられるようになったとはいえ、新鮮な肉を食べられるとは望外な喜びですな!」
向かいの家の中年男性が、物凄い勢いで穴兎を食べながら喜びを声高に表明していた。
お蔭でそれに釣られた他の人たちも穴兎の肉に気付いたのか、さり気なくそちらに集まってきている。
「燻製肉はこちらのダルガスの工房が製造しているので、入手が難しい時は直接注文したらいかが?」
その為に招いておいたダルガスを正面に突き出す。
と言うか、この調子で食べる人間全てを魅了していたらダルガスとしては売り込むよりも売れ過ぎないように情報の拡散を止める方向に頑張る羽目になりそうだ。
燻製用の設備投資などが追加で必要ないか、後で確認しておこうと思った隆一だった。
一応投資家として一部出資しているのだ。熱意たっぷりな需要があり、無理をせずに儲けられる機会があるならそれを無駄にしない方がいいだろう。
まあ、一か所だけが穴兎燻製の圧倒的シェアを握るよりは何か所かの工房が造れるようになった方がもしもの時に一気に品物が無くなる危険性を回避できるのだが……流石に現時点ではまだ暖簾分けを提案するには早いだろう。
ガツガツと穴兎を食べている隣人たちや、ダルガスを囲んで色々話している男たちをよそに、お上品ながらも凄い速さで女性陣はケーキやパイを味わっていた。
この分では男性陣までデザートが行き渡らないかも知れない。
まあ、一応フルーツ類を最後に切って出す用に確保してあるので、口直しは取り敢えず出せる筈。
「それで、どの家が猫を飼っているんだ?」
さり気なく客に混じって歩き回りながら隆一の周囲に気を配っているヴェルタンに、そっと肝心の情報を尋ねる。
「あちらの熱心に穴兎を食べているご老人と……今最後のロールケーキを奪取した女性の家で目撃されてますね」
周囲を見回したヴェルタンが苦笑しながら答えた。
隆一邸のある区画では猫の室内飼いが多いようなので、窓から目撃された猫が居たのがその二か所なのだろうが、他にもいないか聞いてみたら分かるかも知れない。
取り敢えず、ロールケーキの女性よりは穴兎の男性の方が追加を要求されても何とかなりそうなので、隆一はまず男性の方へ近づいた。
「どうですか?
先日、友人を招いてバーベキューの予行演習をした際にちょっと煙が周囲に行き過ぎたかもと心配したのだが、こうやって焼く穴兎の味は抜群でしょう?」
自慢げに声を掛けるのはどうかとも思ったが、変に謙譲するのはこちらの世界では違和感を齎すと言われている。
取り敢えずこれだけ穴兎を貪り食べているので、美味しいと思っているのは確実だろう。
「うむ、素晴らしいですな。
この年になると好物な肉もあまり大量に食べると身体が受け付けなくなるのじゃが、この穴兎は幾らでも食べられそうで、昔を思い出す感じじゃのう。
今日はお招きいただき、本当に感謝する」
老人が食べる手を休めて、隆一に軽く頭を下げた。
「いえいえ。遠方から来たので近所づきあいをどうやっていいか分からず引きこもっていたのはこちらだから、皆さんと付き合えるいいきっかけになって良かった。
そう言えば、うちで飼っている猫の為におやつを作ってみたのだが……それの試食を頼める猫を飼っている家を存じないだろうか?」
お宅の窓から外を見ている猫を目撃されたんだけど、協力してくれと言って良いか分からなかったのでちょっと回りくどい言い方にして尋ねてみる。
「おお、うちにも可愛い黒猫がおるぞ。
おやつかぁ。あまりあげすぎると太りそうで心配だが、少量だったら美食は人生の楽しみと言うし、試食に手伝うのも構わないが……中に何が入っているのか聞いてもいいかの?」
中身に関して心配された。
確かに何が入っているか分からない物を愛猫に食べさせるのは心配か。
おやつ〜と言われて中身を確認せずにあげちゃ危険ですよね




