1126.実戦っぽく(51)
「結界!」
ポカ!
相手ありな結界練習の第一回目は隆一がヴェルタンの振るった木剣にあっさり頭を叩かれる結果になった。
叩かれるというよりは触れるに近かったが。
「あ~、真正面に立って剣を振るうんだったら間に合わないかもですね。
10歩ぐらい離れたところから走り寄ってきて襲い掛かる形にしましょうか」
ヴェルタンが気まずそうに言った。
「そうだな、その方が現実的だと期待しよう」
26階にいる時は常時魔力を練って結界を展開できるようにしておく方が良いのだろうが、将来的には攻撃魔術と結界との魔力を両方待機状態にしておける状態になりたいところだが……それを考えると防御結界を展開する魔法陣を準備しておいてそれに急遽魔力を流し込める形にする方が良いか?
まあ、二種類の魔術を同時に準備しておいて放てるようになるか、先ずは鍛錬して試してみるべきだろう。
と言うか、考えてみたら攻撃魔術にしても範囲魔術は無理でも、魔力を多く準備しておいてそれを小分けして放つことで連射が出来るかも?
魔力を準備状態で大量に練っていたら周辺の魔物の注意を引いてしまいそうな気もするが。
こう、体内で魔力を練っておき、外には洩れさせずに使いたい用途に瞬時に使えるようになるのが理想だ。
「じゃあ、もう一度行きますよ~」
10歩ほど離れたヴェルタンが声を掛ける。
「おう」
急いで魔力を結界用に練りながら隆一が応じる。
バシ!
今度はちゃんと結界が木剣を受け止めた。
「ふむ。
じゃあ、もう少し力を込めますね。
力を込めて割った際に勢いが付く可能性があるので、ヘルメットを被っていただけますか?」
ヴェルタンが結界をガンガンと何度か手で殴って強度を確認しながら言う。
どうやら力を込めて木剣を振るえば結界が割れる可能性が高いと想定しているらしい。
考えてみれば、最終的には本気で切り込んでもらう話になっているのだ。
手を伸ばした程度の距離に展開した結界を叩き割った後に隆一の頭に触れないで寸止めさせるというのは、確かに無駄に難易度が上がっている。
それよりはヘルメットを被る方が無難だ。
と言うか、頭だともしもの事があったら面倒なので、先日騎士団で貰った軽量化したアーマーを身に着けて、肩の辺りを切り付けて貰った方が良さそうだ。
「ちょっと26階で身につける予定の軽量化したアーマーを取ってくるから待っててくれ。
あれで肩を切り付けて貰う方が良い」
と言うか、まだ余裕があるからとヘルメットもアーマーも身に付けずに多少防御力がある布装備で迷宮に潜っているが、体力をつけるのと防具を付けて動き回るのに慣れるためにも、不便であろうとあれを常時使って迷宮を探索すべきかも知れない。
はっきり言ってしゃがみ込んで歯形を取るのには非常に邪魔だが、慣れればきっとなんとかなるだろう。
多分。
「アーマーですか?」
ヴェルタンがちょっと驚いたように聞き返す。
「重量軽減型バックパックと似たような機能で重さを減らしたアーマーだ。
俺でもそれを身に着けて動けるぐらい軽くはなったが、それなりに邪魔だから受け取ってから実は殆ど身に着けていないんだが……真面目に26階に行くつもりならあれにも慣れておく方が良いだろう」
ヘルメットも慣れるべきだが、あれは取り敢えず結界展開の練習には無しにしておこう。
「へぇぇ、重量軽減したアーマーってことは、軽いけど防御能力は減っていないってことですよね?
民間にも売り出されているんでしょうか?」
ヴェルタンが興味を持ったように尋ねる。
ヴェルタンたちは警備時間中はアーマーを身に着けて動き回っているが、やはり重くて邪魔なのだろうか?
魔石を使うので常時運用費用が生じるが、それは迷宮探索で入手した魔石を使えばカバーできるだろうから、隆一用に貰ったアーマーの重量軽減の仕組みを確認して、ヴェルタンたちのアーマーにも流用出来ないか試してみても良いかも知れない。
……一応、明日の迷宮探索の際にでもデヴリンに問題が無いかは確認すべきだろうが。
幾ら大元は隆一の開発した技術を使っているとはいえ、実用レベルまで研究開発したのは騎士団の方なのだ。国の好意で無料で提供された最先端技術を使った防具を安易に流用するのはちょっと顰蹙かも知れない。
隆一邸内部だけで使うのはOKでも、それを誰かに売られたり盗まれたりしたら問題ですよねぇ〜




