1125.実戦っぽく(50)
隆一は役立たずな威力になるか、味方を巻き込むかの二択になりそうな範囲魔術は諦め、取り敢えず結界の腕を上げることにした。
考えてみたら最初にやってみた際に何度か練習してちゃんと起動するようになった時点でもやたらと時間が掛かるので諦めた記憶がある。
なんと言っても、ダルディールが傍にいるのである。
使う状況が思いつかなかったし、足止め用魔道具で自分に負荷なく魔物を停止させて攻撃出来る様になったので、結界の魔術を使う必要が無かったのだが……26階まで降りて何か問題が起きて複数の魔物に想定外に襲われた際は自分の周りを360度守れる結界の方が、襲われた方向に投げつけるか設置する必要がある足止め用魔道具よりも実用性が高そうだ。
「結界!」
攻撃魔術でやったのと同じように魔力を練ってから自分の周りに魔力の殻を形成するようなイメージをしっかりと持って放ってみたら、意外とあっさり術が放てた。
考えてみたら迷宮探索をやっている間に基礎能力値が上がったのだし、攻撃魔術とは言え魔術を放つのにも慣れてきたことで、結界の術の完成度もついでに上がっていたようだ。
「何かの鍛錬ですか?」
庭でホースにシャワーヘッド付けて水を撒きながら結界の練習をしている隆一にヴェルタンが声を掛けてきた。
「結界の実用性を上げようと思ってね。
展開する速さだけじゃなくて範囲がどのくらいかとか、形がどうなのかとか自分と一緒に動かせるかとかを調べようと思って」
魔力視で集中してみれば自分の造った結界の殻は視えるのだが、集中せずに視えるようにした方が色々と素早く試せるので、シャワーからの水滴がどう弾かれるかで色々確認していたのだ。
簡単に目に見えるし、ついでに結界の展開が遅くて隆一が濡れるともっと早く展開しようというインセンティブにもなる。
「え~っと……雨除け用なんですか?」
ヴェルタンがちょっと首を傾げながら尋ねた。
「いやまあ、長時間使える省エネタイプを展開できるようになったら雨除けとしても良いかもだが、取り敢えずは形とか展開速度とかを確認する為に水を使っているだけだよ。
慣れたらヴェルタンにも切りかかって貰って強度の確認とか向上もやりたいが」
一応術の展開にはそれなりに融通が利くので、結界の形も完全な球形で腹周りが一番厚い形も、球形が途中で地面にぶつかるような球を下2割ぐらいの所で切ったような形も可能だった。
ただ、動き回る場合は地面に触れる部分が少ない完全球形の方が結界の動きが自分とちゃんと一致する。
とは言え、大股で動くと足が結界からはみ出すか、もしくははみ出さないことを意識して結界を展開すると変な感じに内側から結界にぶつかって躓きそうになる。
足首とかをピンポイントで切られる可能性は低いと期待して、足が結界からはみ出すのを許容した方が襲われた時に攻撃を避けやすいかも知れない。
まだ試したことは無いが、展開した結界は外部からの攻撃を止めれば止めるだけ魔力が削られて崩壊するのが早くなると教わったから、じっと立ち止まって只管結界で攻撃を受けるよりも避けられる攻撃は避けた方が良いだろう。
「え、俺が切りかかるんですか?」
ヴェルタンが嫌そうに聞いてきた。
「最初は訓練用の木剣で軽くで良いよ。
大丈夫そうだったら本気で力を込めた木剣で、更に上達したら真剣で、って感じでいきたいね。
理想としては26階の魔物の攻撃を一度か二度程度受け止められる強度なんだが、ヴェルタンの攻撃って26階の魔物と比べるとどうなんだ?」
デヴリンに頼めば確実に26階の魔物相当もしくはそれ以上の強度の攻撃をやってくれるだろうが、家で練習できるのだったらその方が都合がいい。
「26階ですかぁ?
魔物にも寄りますね。
手数で襲ってくる奴の一回ごとの攻撃だったら同じ程度の攻撃はできますが、一撃必殺タイプのは俺の剣よりも強烈ですし。
と言うか、マジで26階に行くんですか?」
ヴェルダンが眉を顰めて言った。
「まあ、どうしてもダルディールとデヴリンのお守りが付いても身を護るのが無理そうだったら諦めるが……出来るならば迷宮の宝箱を探したい」
本当だったらダンジョンマスターに会って色々と質問したいところだが、流石にそれは絶対に無理だと思うので26階の宝箱で妥協しようと思っているのだ。
国や探索者ギルドとしてはそれも止めて欲しいというのが本音だろうが。
「まあ……取り敢えず、俺が協力しますから、俺の攻撃すら耐えられるレベルに上げられなかったら諦めてくださいね」
溜め息を吐きながらヴェルダンが言った。
どうやら本気で協力してくれそうだ。
断念させるのが狙いだとしても、有難い。
宝箱探しはラノベのダンジョン物ではロマンですよねぇ




