1124.実戦っぽく(49)
あまりの威力の違いに思わず練習で本当にどうにかなるのか尋ねた隆一に、フリオスが暫し首を傾げて考えてから、微妙な顔をした。
「魔術師のギフト持ちでない場合でも、血反吐を吐く勢いで鍛錬を続けて基礎能力値を上げれば威力そのものは上げられるという前例はあるのですが……その場合、コントロールがどうしても二の次になりますね」
なる程、魔術師のギフト持ちでない錬金術師などでも無理やり範囲魔術の威力を上げていった人間が長い歴史の中では居たらしい。
とは言え。
「コントロールが二の次って言うのは自爆覚悟な最後の手段的な扱いになるのか?」
「いえ、それなりの魔防効果のある装備で身を固めれば自分は何とか大丈夫なレベルまではコントロール出来るようになったそうですが、誰かと一緒に共闘する場合は数百メートルは離れないと危険でやってられないという話だったらしいですね」
フリオスが身も蓋も無い情報を提供した。
隆一の身体能力と戦闘力で26階を一人で徘徊するのは現実的ではないことを考えると、護衛役の二人に数百メートルも離れて貰うのは自殺行為だし、デヴリン達も合意してくれないだろう。
「つまり、過去に魔術師のギフト持ちでないのに範囲魔術を実用レベルで使えるようになった人間はソロで戦っていたと?」
一般的に魔力系のギフト持ちは近接戦闘が苦手なので、ソロには向かないと言われるのだが。
まあ、誰もが隆一の様に動体視力や反射神経がちょっと残念な人間ばかりではないのだろうから、迷宮で探索を続けて基礎能力値を上げ、近接戦闘もしっかり習って鍛錬を続ければソロでの探索も可能になる人間もいるのだろう。
多方面にわたって才能がある人間だって探せば少しはいるのだから。
才能が微妙でも本人のやる気次第で人間のポテンシャルというのはかなり上がるのだし、基礎能力値と言うものが上げられるこの世界だったらそれこそ諦めなければポテンシャルは青天井なのかも知れない。
とは言え、ペルワッツ迷宮がずっと攻略出来ていないことを考えると、ある程度以上上がった後の天井は上がり続けるにしても微々たる成長になるのだろう。
もしくは迷宮の最下層の魔物のポテンシャルも青天井に上がるのか。
ダンジョンマスターが設置できる魔物のポテンシャルにも上限があるのか、興味があるところだ。
上限が無ければどの迷宮も攻略不可能になるだろうから、多分あるのだろうが……どのように設定されているのか、是非教えて貰いたい。
が、それこそ鑑定で対象者の戦闘力や生命力を確認できないこの世界では魔物の強さの設定がどうなっているのかを研究するのは無理そうだが。
「う~ん、26階に足を伸ばせたとして、何らかの理由でデヴリンとダルディールが対処できる以上の魔物が集まってしまった時に彼らがカバーできるまでの間、自分の身を守れるような魔術の使い方が出来るようになりたいのだが。
複数に襲われての事態と言う想定だから単体用攻撃魔術では足りないと思うが、周囲の味方も吹き飛ばすんじゃあ意味がない。
防御結界を頑張るべきかなぁ?」
防御結界の出力を26階の魔物が複数で襲い掛かってきても即座に身を守れるぐらいまで高めるよう鍛錬するべきなのだろうか?
「まあ、26階まで行かないのが一番ですが……なんだったら護衛特化の騎士でも連れて行きますか?」
フリオスが提案した。
なるほど、近衛とか護衛特化の騎士だったらそれこそデヴリンの攻撃でも短時間なら防げるぐらいの防御結界を即時に展開できるのかも知れない。
とは言え。
流石にお遊び感覚の宝箱探しに要人の護衛を任される様な人員を引き連れていくのは顰蹙ものだろう。
ここはもう少し、自分で何とか出来ないか努力すべきか。
魔道具としての結界だったら直ぐに展開できるが、隆一は魔術としての防御結界に関してはイマイチ適性がないのかあまり練習していても強度が上がった実感が無いし展開も遅いままだ。
攻撃してくれる相手がいないと練習も出来ないし、魔術攻撃をして貰う代わりの武器を作るのは情報が漏れた時の余波が怖いので手を付けたくない。
どうしても自分一人で練習が完結する攻撃魔術の方が鍛錬して伸ばしやすいのだ。
今度、隆一邸の警備担当の連中に切りかかって貰って練習してみたら良いだろうか?
彼らの攻撃力が26階の魔物と同程度なのかは不明だが。
デヴリンに確認しておこう。
同程度でないとしても、彼らから突然襲われた時に身を守れないようだったら26階の魔物相手に身を守れないのは多分確実なのだ。
ヴェルタンあたりの攻撃力が26階の魔物を越えているかどうか確認して、彼ら相手に防御結界の魔道具か魔術を磨く方が範囲魔術の実用性を上げるよりはましそうだ。
魔道具と自力と、どっちが早く現実的な防御手段になるか。
もしくは暫く自力で戦えるぐらいに戦闘能力を上げられるか。
フラフラと目標を変えてるとどれも達成できなそうですけどねw




