1123.実戦っぽく(48)
「範囲魔術で何よりも重要なのは、自分や他の味方を巻き込まないことです。
単体攻撃ですと標的がはっきりしていてそれに向かって放っているので、味方がうっかり射線を遮ってしまわない限り誤射はありません」
範囲魔術のコツについて尋ねたら、フリオスが基本についておさらいを始めた。
ちなみに、最初に隆一が攻撃魔術を使い始めた頃は必ずしも狙った所に当たる訳では無かったので、デヴリンがうっかり射線を遮らなくても誤射する可能性はあったが、最近は大分と慣れてきたから狙った所に大体飛ぶようになったし、放った後も多少の軌道修正が出来るようになってきた。
「デヴリンなんかは俺がうっかり誤射しても背中に目が付いている様に避けてくれるんだが、やっぱあれは例外なのか?」
どこぞの凄腕侍のごとき回避術はこの世界の戦闘職なら誰でも出来るのかどうか、ちょっと気になるところである。
「まあ、魔力感知が鋭い人間だったら他者の放った攻撃魔術やその前兆を感じとって避けられることもありますが……デヴリンのは勘なのでちょっと例外ですね。
あれは他の人間が腕を磨いてもそう簡単には到達できない領域です」
苦笑しながらフリオスが答えた。
魔力感知ではなく、勘だとは。
中々凄い人間を護衛役につけて貰えたようだ。
まあ、軍の通常任務ではそこまでの能力が必要無いから、デヴリンはもしもの時の最終兵器的な扱いであり、普段はそこまで活用されていないからこそ招かれ人の護衛に付けても問題ないのかも知れない。
「それはさておき。
範囲魔術の場合、標的を狙うというだけでなく範囲をしっかりと意識しつつ絞って使わないと自分や味方が巻き込まれたり、敵がいない範囲にまで攻撃を広げてしまう事で魔術の効果を薄めて弱くしてしまうことになります」
フリオスが説明を続けた。
「あ~。
そう言えば、範囲魔術って籠める魔力の量で自動的に範囲が決まる訳じゃないんだっけ。
特に範囲指定を考えずにやっているのに周囲を巻き添えにしないでおこうとするから弱っちい効果しか出なかったのか」
範囲指定をすることは一応最初に教わっていたが、範囲指定をしなくても込める魔力で自動的にある程度範囲が増減するのでしっかり意識して術に組み込んで指定するのを忘れていた。
「籠める魔力の量で範囲指定をするようではそれこそ庭に水を撒く程度の弱い術になりますね」
フリオスが頷いた。
「あれ?
じゃあ、俺の範囲魔術が弱々なのって大量に魔力を術に籠められないからではなく、ちゃんと範囲指定してないから自分を巻き込まない様に無意識に魔力を制限しちゃっているせいなのか?」
てっきり魔力を放つ口が狭いせいだと思っていたのだが。
確か、最初に範囲魔術を試してショボい効果しか出なかった時に教師役の魔術師にそう言われた気がする。
「範囲魔術の効果を高めようとしたら範囲を絞るか魔力を増やすかになりますからね。
ある程度以上の範囲で、単体魔術と同じぐらいの強度の術を放とうと思うと一気に大量に魔力を出さねばならないので魔術師のギフト持ちでないと難しいでしょう。
ただまあ、他の魔力を使う職業の人間でも、水撒きよりはもうちょっと効果の高い術は放てる筈ですよ」
フリオスが苦笑しながら言った。
どうやら単体レベルの強度の攻撃魔術を範囲魔術で放とうとするのはやはりかなり厳しいらしい。
「取り敢えず、一度試してみましょうか。
あちらの的の周辺の2つ目の円の中を燃やすよう、やってみて下さい」
フリオスに言われて、演習所の的の周囲を見回す。
半径5メートルぐらいなので、それなりの広さになる。
「地面を焦がすぐらいな感じでやってみると良いかも知れません」
フリオスが付け足す。
火矢だったら確実に地面や的を焦がすのだが、範囲魔術でそれが出来るか。
ちょっと心配になりながらも、成功するイメージを抱けなければ術を上手く発動できないので、的の周辺が丸く焼き尽くされる姿をイメージしながら、術を唱える。
「火嵐!」
炎が隆一の手から巻きあがり、的の周辺へぶつかって燃え上がるが……一瞬燃えるだけで、あっという間に消えて、数秒後には地面の草が焦げて煙を出している程度になってしまった。
「これって通常の魔術師がやったらどうなる?」
フリオスにお手本を見せて貰いたいと、尋ねてみる。
「もうちょっと長く燃え続けますねぇ」
フリオスが応じ、的の方へ手を翳した。
「火嵐!」
的の周辺が一気に燃え上がり、そのまま巨大なキャンプファイヤーであるかのように五秒ほど炎が燃え上がり続けた。
隆一の攻撃だったら服に火が付いたらちょっとヤバいかもと言う程度だったが、フリオスのこの攻撃だったら例え服を水で濡らしておいても大火傷で死んでしまいそうだ。
「……これって練習したらどうにかなるレベルなのか?」
あまりにもレベルが違いすぎる気がするが。
明けましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いします!
カクヨムで書いていた『子爵家三男だけど王位継承権持ってます』の番外編を書き足しました。
良かったら読んでみてください。
https://kakuyomu.jp/works/16818023211694735678




