1120.実戦っぽく(45)
「よし!
では他の迷宮の探索へ行く準備が出来るまでに、ホブゴブリンの歯形も集め終わらせておこう」
転移門へ向かいながら隆一が言った。
半ばダメだろうと諦めていた王都外への外出が出来そうなのだ。
それまでに準備は出来るだけ済ませておこう。
「そう言えば・・・。
上層のゴブリンって全部で何体ぐらいいるか、探索者ギルドで把握しているのかな?」
転移門に辿り着き、列の最後に並びながら隆一がふとダルディールに尋ねる。
「・・・正確な数は把握していないと思うが。
あの階層は突進豚や一角ウサギを狩る為に入る人間が多いから、そう言う連中に行き当たるたびに倒されているので時間帯や外の天気によってそれなりに変化するし」
ダルディールが肩を竦めた。
「流石にあそこで全てのゴブリンの歯形を取って回るのは嫌なんだが・・・」
デヴリンが嫌そうに顔をしかめながら隆一に告げる。
13階では魔石以外売れる部位もないコボルトやホブゴブリンの群れとの戦いが忌避される為、特に何か鍛錬する理由がある探索者以外は果物採取ルートから離れない。なので隆一達がコボルトの歯形を取っていても目撃する人間は殆どいないが、肉の主要収穫場な上層となるとそれなりに人の目につく。
元高ランク探索者としては、ゴブリンを殲滅して回って何やら口の中を弄っている姿を見られたくないらしい。
「・・・ふむ。
探索者ギルドに依頼をだして、倒したゴブリンの歯形を取ってきてもらうのは可能かな?
群れじゃない魔物も限られた数の原型が複製されているのか、興味があるところなのだが」
金で解決できるなら、駆け出し探索者に資金をバラまいて歯形集めをさせるのも悪くはない。
「流石にインク諸々のセットを持ち歩かなければならないとなると肉を集めるついでに頼むというのは無理だろうが、ちょっと怪我をしてリハビリ中な中ランク程度の探索者に依頼を出してやらせるのは可能ではあるかも?」
かなり疑わし気にダルディールが言った。
どうやらゴブリンを倒して回って口の中を触らなければいけないという依頼は微妙らしい。
考えてみたら、確かに上層のゴブリンは13階のホブゴブリンより臭い気もした。
口臭も臭いのだとしたら、ますます嫌がられるだろう。
とは言え、何も食べている様子が無い迷宮産のゴブリンの口が臭いのかは微妙に不明だが。
考えてみたら新陳代謝その物があるかどうか微妙なのにゴブリンが臭いこと自体、かなり不思議だ。
何か悪臭が出る体液でも滲み出る構造になっているのだろうか?
「後でスフィーナに相談してみるか。
怪我から回復中な探索者でも、若い見習いもどきな探索者でも、取り敢えずちゃんと丁寧にしっかり歯形を取ってくれれば誰でもいいんだから、比較的安全な収入源を誰に提供すべきかスフィーナに選んでもらえばいいさ」
王都迷宮で上手く行ったら、他の迷宮でも頼んでみても良い。
なんと言ってもゴブリンと言えば、ラノベで常に出て来る魔物だ。
それらが全部違う個体なのか、原型の複製なのか、そして複製なのだとしたらどのくらい原型の数があるのか、興味がある。
そう考えると、大量に倒している穴兎もついでに確認してみるべきかも知れない。
下層になればなる程原型の数が増えるのか、それとも一定の割合なのか、色々と調べたら迷宮の仕組みへの理解が深まるかも知れないし。
そんなことを考えながら転移門を通り、10階へ跳んで13階まで降りて行く。
今日は今迄のコボルトを狙ったルートから外れ、ホブゴブリンのテリトリーの方へ向かう。
テリトリー内での動きは決まっていないので、魔力感知で魔物の位置を何とかチェックしながら隆一は右の方へ進んだ。
「今回も、死にそうにならない限り、数回殴られても放置か?」
ちょっと嫌そうにデヴリンが尋ねる。
「ある程度反撃を食らいながら戦う練習はやっておく方が良いだろう?」
クロスボウもどきにセットした足止め用魔道具の数を確認しながら隆一が答える。
現実的な話として、26階の魔物に攻撃を食らった後でも隆一が反撃できる状態でいるかは微妙なところだが、がっつり攻撃を食らわなくてもかすり傷程度だったら死なないで戦える可能性は高いのだ。
そこら辺はやはり、出来る範囲で練習すべきだろう。
「お、来たな」
良い感じに岩の向こうから駆け寄って来ているので、群れがばらけている。
最初の2体は良い感じにボーラ型の足止め用魔道具が巻き付き、あっさり倒れた。
「氷矢!」
次に来たのが何故か一体だったので魔術で倒し、その後ろの3体へ足止め用魔道具を放つ。
ちょっと微妙に外れるかと思ったが、幸いにも3体とも上手い事ボーラに囚われて倒れてくれた。
その後ろの2体に次の足止め用魔道具を放つが、ちょうど足元に倒れているホブゴブリンを踏みつけて転んだ一体がボーラの縄から逃れた。
「ち!
氷矢!」
攻撃魔術を放つが、起き上がりながらこちらへ投げつけてきた棍棒を割けようとしたことで、魔術の狙いがずれた。
「火矢!」
氷よりも慣れており、魔力を練らずに直ぐに撃ちだせる火の攻撃魔術を近寄ってきたホブゴブリンに放ったら、顔に当たって頭を吹き飛ばした。
胴を狙ったのだが、慌てていたせいでちょっと狙いがずれたようだ。
「これで最後だ!」
最後に何とは無しにやる気なさげな感じで走ってきた2体へボーラを放つ。
今回はちゃんと変に躓く物が無いタイミングで狙う余裕があったので、上手く2体とも拘束出来た。
「やはり10体も来られると、忙しないし焦るなぁ・・・」
足元の1体から順にホブゴブリンを回って止めを刺しながら隆一が呟く。
コボルトと体形が違うせいで多少動きや狙うべき高さも違い、微妙にやり難いせいで余計に難易度が上がった感じだった。
「まあ、範囲魔法で全部ぶっ飛ばすんじゃない限り、魔術師にホブゴブリンの群れを一人で倒せなんて言う状況は普通は無いからな。
良くやっている方だと思うぞ?」
デヴリンが肩を竦めながら言った。
どうやら隆一もそれなりに上達して来たらしい。
上達してた!!




