1119.実戦っぽく(44)
「取り敢えず、軍の量産型小型飛行具の試作機で貴人の移動に使われる際の運用テストを兼ねて迷宮巡りをする形にするという感じにフリオスが話を進めてくれることになったぞ」
13階のコボルト虐殺が一巡した翌日、王都迷宮前で落ち合ったデヴリンが隆一に報告した。
「おお~。
貴人役が俺って訳か。
迷宮の中に入る際はどうするんだ?」
国内のマッピング兼未攻略迷宮探しに回った際にも何か所か迷宮に入った。
だがあの時は上層の1階か2階程度だった。今回はコボルトの群れがいる階層まで進むつもりなのでもうちょっと本格的な探索をすることになる。
「まあ、魔物相手には俺とダルディールが居れば大丈夫なんだから、後は王族がお忍びで地方都市の迷宮で探索をする際の練習って感じにすればいいんじゃないか?」
デヴリンが肩を竦めながら応じた。
ある意味、超一流なデヴリンとダルディールがお守り役として付いて回るのだ。
下手な王族の迷宮探索よりもしっかり守られている可能性が高そうだ。
「王族ってお忍びで地方都市の迷宮に行ったりするのか?」
隆一がちょっと首を傾げながら尋ねる。
「王都迷宮は人の出入りが多いからな。
王族が護衛をぞろぞろ連れて入ると目を引くから、王位継承権が高い場合なんかは何とか時間をやりくり出来たら地方都市でやる方が安全性は高いから好まれる。
ただまあ流石に飛行船を王族の迷宮探索の為だけに動かす訳には行かないから、何かついでがあった場合にどさくさ紛れにやってる程度だな」
デヴリンが答える。
確かに、あの超大型飛行船では運用費用が高いし目立つ。それにもしもの時に王都に無かったら困るから早々動かせないだろう。
かと言って馬車や馬での移動だと時間が掛かりすぎる。
「飛竜とかで移動したりはしないのか?」
隆一の小型飛行具が発明される前は、飛竜がセスナの現地版な位置付けだと隆一は思っていたのだが。
「あれは大人数を動かすのには向いていないからな。
集団になると目を引くことに変わりはないし、飛竜に毒や薬を仕込んで暗殺手段にすることもあるから飛竜乗りの方が王族や貴族を乗せるのを嫌がることが多いし、中々難しいんだ」
ダルディールが言った。
飛行具でも故障したら落ちるが、飛行具よりは飛竜の方が死んだら終わりと言う感じは強いし、精神的なショックも大きそうだ。
そう考えると、確かに命を狙われる様な存在を乗せるのは嫌がられるだろう。
道具ならまだしも、信頼関係を築いてきた生きているパートナーだと思うと金で解決しない問題になる。
「そう考えると、小型飛行具が普及すると移動が難しいから駄目って言われていた王族とかの我儘が通りやすくなるのか?」
お守りをする羽目になる騎士団に恨まれそうな気がしてきた隆一だった。
「まあ、ちゃちゃっと行ってちゃちゃっと帰れるようになれば息抜きになって我儘が減るかも知れないし、理不尽な要求をしてくるような奴は道具があろうがなかろうが我儘は言うんだから、それ程違いは無いさ」
肩を竦めながらデヴリンが言った。
「そうか。
それなら良かったが。
で、他の迷宮に回れるのはいつになりそうなんだ?」
一応王都迷宮のコボルト達ももう一度一通り倒して回って歯形を取るつもりだが、他の迷宮のコボルトが同じ原型なのか、違うのかを早く確認したくてうずうずする。
「あ~。
人のやりくりとか、上への根回しとかあるから暫く待ってくれ。
ちなみに、流石にペルワッツは無理だと思うから騎士団の人間なり探索者なり俺たちなりにあそこは任せてくれ」
他の迷宮はまだしも、流石に未攻略な迷宮で群れが出て来る中層まで探索するのは遠慮してくれと言うところらしい。
「まあ・・・しょうがないだろうな。
まずは他の迷宮を確認してどの位違いがあるかが分かってから、デヴリン達に頼むか適当な他人に頼むか考えよう」
流石にあまり我儘をごり押ししすぎると他のリクエストが通りにくくなりかねない。
取り敢えず、国内すべての迷宮のコボルトが同じ原型を使っているようだったら・・・国外にも出る予定がありそうな探索者に歯形の取り方を覚えて貰って、ペルワッツと適当な他国の迷宮の一つか二つ回って歯形を取ってきてもらいたい。
迷宮の運営に関して国境線は関係ないとは思うが、一応他国だと違う原型を使っているか否かは確認しておきたい。
流石にデヴリン達に国外まで出て貰うと悪いし、隆一の迷宮探索もストップしてしまうのでこれは探索者に頼みたいところだ。
ガンガン横道に逸れている気が・・・
まあ、国側にとって中層魔物の歯形取りに熱中してくれている方が26階に行く!と主張されるより有難いんでしょうねぇ。




