1118.為になる研究かもだが:フリオス・ルーバッカ
「リュウイチ殿が各地の迷宮に行ってコボルトの歯形を取って回りたいと言っている??」
名目上の上司であるデヴリンの言葉に、フリオスは思わず頭を抱えた。
「え~っと・・・リュウイチ殿は26階の宝箱探しを夢見て鍛錬をやり直している最中で、こないだから13階で群れを相手にした集団戦の練習をしていたのでは?」
それが何で歯形を集める話になるんだ?!
最近はリュウイチ殿の探索がほぼ半日ずつになったお蔭で副団長であるデヴリンが午後に騎士団へ戻ってきて仕事をしていてくれたので、却って纏まった情報共有が行われていなかった。
幾ら平時は仕事量が少ない戦闘担当の副団長であろうと、1日分の仕事を半日で終わらせる羽目になっているデヴリンがノンビリ座り込んでフリオスと話をする暇が無かったというのが一つなのだが・・・それ以前に、デヴリンは情報共有の重要性をイマイチ認識していない様だ。
と言うか、ある意味妹の命の恩人であるリュウイチ殿のプライバシーは出来るだけ侵害したくないし、一々報告するのも面倒と言う事で、ヤバい事をやらかそうとしていない限りかなり漠然とした話しかしてくれていない気がする。
まあ、フリオスにしてもぎちぎちにリュウイチ殿の管理をしよう口出しをし過ぎると逃げられそうな予感がするので、知らぬが仏であまり突っ込んで聞いていなかったのだが・・・。
何故今回の招かれ人は魔物の歯形を取っているんだ??
招かれ人は色々と新しい知識や技術を齎すことが多く、その反面こちらの世界とは違う常識に基づいて動くので想定外な考え方や行動をすることが多いという事はリュウイチ殿が迷宮の探索をすることになって護衛役を騎士団からも提供することになった時点で神殿から国や騎士団に情報共有されていたのだが・・・。
歯形??
「う~ん、何が発端だったかは忘れたが、群れている魔物の個体が全部違うのか、同じ個体の複製なのかに興味を感じたらしくてな。
人間だと歯形って個人差があって二人として同じ形の者はいないので遺体の判別とかにリュウイチの世界では使われているらしい。
それで試しに倒したコボルトの歯形を取ってみたら、個体差があったんだ」
デヴリンがぼりぼりと頭を掻きながら説明を始めた。
ほう。
遺体の判別に使えるとは中々便利かもしれないが・・・そのために前もって軍部や王宮の役人などの歯形を集めているのだろうか?
「つまり、迷宮内の魔物は同じ原型の複製ではないと」
ある意味どうでも良い情報ではあるが、迷宮に関して研究している学者に知らせたら喜ぶ話かもしれない。
「いや、13階のコボルトを全部倒して歯形を片っ端から取ったんだが、個体の原型は大体20体ぐらいで、それが各群れに複製されているようだ。
場合によっては群れの中で同じ原型のが2体いることもあった。
で、流石にコボルト相手に面談する訳には行かないが襲ってくる時の早さとか行動を見るに、それなりに原型によって好戦的だったり後からやる気ない感じにちんたら襲ってきたりっていう性格というか特性はあるみたいだな」
デヴリンが言った。
魔物に個性があるというのはあまり考えたことは無かったが・・・性格がある上に、複製のような同じ個体があると言うのはますます迷宮という仕組みの不思議さが実感される。
神が世界の陰と陽のバランスを取る為に作った仕組みであると神殿が教えているが、個体が複製されているなどと言う話を聞くと超常な存在を強く感じる。
それはさておき。
「中々興味深い話ですが・・・それと王都外の迷宮を回りたいのとどうつながるんです?」
嫌な予感を感じながら尋ねる。
「他の迷宮でも同じ原型が使い回されているのか、違う原型が各迷宮で使われているのか。
あと、未攻略な迷宮だったら何か違いがあるのかを調べたいそうだ」
デヴリンが応じる。
「・・・ペルワッツにも行きたいと?」
一応もう一人の招かれ人がいるし、護衛もがっつりつけるのは拒否されないだろうが、未攻略な迷宮に招かれ人が行くのは歓迎できない。
「まあ、未攻略な迷宮はイレギュラーが起きやすいしその変動幅も大きいから危険度が高いとは説明してあるから・・・他の迷宮に行くのを認めれば、ペルワッツだけは契約した探索者か俺たちに任せてくれるかも?」
デヴリンが肩を竦めながら言った。
「迷宮ごとに魔物の個体が同じか違うかなんて、どうでも良い事じゃないですか・・・」
机の上に肘をついて額を揉みながら呟く。
「まあ、それを言うならリュウイチにとってはこの世界での生活そのものがどうでも良い事だからな。
知的好奇心を満たすことが生きがいみたいな感じになっているようだから、妥協を交えつつ安全を確保して楽しませないと酒浸りになって若死にするかもだぞ?」
デヴリンが指摘する。
確かに、神殿から貰った資料を見るにやりがいと見つけた招かれ人はそれなりに長生きするが、綿で包んだようにしっかり安全にと守られすぎて生きる目的を見出せなかった招かれ人は・・・長生きしないケースが多い様だった。
アキヒ殿の様に装飾品づくりに熱中してくれたらいいのに。
まあ、知的好奇心が旺盛だからこそ色々とリュウイチ殿は便利な発明をしてくれているのだとは思うが、それが世界に与える影響を考えると一概に有難いとも言い難く、中々頭が痛い。
痛し痒し?




