1117.実戦っぽく(43)
「氷矢!」
足止め用魔道具付きボーラで拘束し損ねたコボルトに攻撃魔術を叩き込む。
氷だと凍らせるというステップが入るせいか水矢や風矢よりも準備に一瞬長くかかるし、魔力消費量も心なし多めな感じだが、氷と言う素材に拘束効果がある為にしっかり急所に当たらなくてもコボルトの動きを阻害してくれるので、群れを相手に戦う場合はこちらの方が都合がいい。
ここ数日で大分と氷矢を使うのにも慣れてきた隆一だった。
「やっと13階の群れを一通り倒した終わったな」
床に転がるコボルトの止めを刺すのを手伝いながらデヴリンが言った。
最初は周囲に倒し終わっていないのが居ないかを用心しながら止めを刺して回るのも慣れるべきと言う事で全て隆一にやらせていたデヴリンだが、流石に倒した群れが3つを越えたあたりでもう慣れただろうと時間節約も兼ねて手伝ってくれるようになった。
「ああ。
幾つかの群れをもう一巡してリポップした際の違いも確認するつもりだが。
後はホブゴブリンに関しても検証したいな」
歯形用のインクと筆とペンのセットをリアカーから取り出してデヴリンに渡しながら隆一が応じる。
「・・・ダンジョンマスターが、なんだってコボルトが殺されまくっているのか不思議に思っていそうだな」
ダルディールがちょっと笑いながらコメントする。
「ダンジョンマスターの同窓会とかグループチャットみたいのがあったら、『急に今年になってコボルトが虐殺されまくってるんだけど、何か知ってる??』みたいなやり取りが出てきてたりかも?」
隆一も軽く笑いながら応じる。
「ぐるーぷちゃっと?
なんだそれ?」
かぱっと足元のコボルトの口を開けてインクを吸わせた筆を突っ込みながらデヴリンが尋ねる。
「あ~。
俺の世界では複数の人間が同時に遠距離から一つの掲示板みたいなところに書き込みをしてお互いで意見交換が出来るような仕組みがあったんだ。
わらわらと意見交換をしたり近況報告っぽい雑談をするのに便利だったな」
こちらの世界でも通信機が一応あるし、ファックスもどきも隆一が発明したが、チャットアプリっぽい物の再現は難しそうだ。
「遠距離で意見交換できるのは色々と便利そうだし、軍事行動の時なんかは強力な武器になりそうだが・・・近況報告にそんな仕組みを使えるとは、なんとも凄い技術が進んだ国だったんだな」
デヴリンが言った。
確かに一気に遠距離で意見交換出来たら軍事行動とかでも役に立ちそうだが・・・実際にチャットアプリを軍事行動に使っていたのだろうか?
某アメリカ製SNSアプリの機密保護機能が高かったから『アラブの春』運動が政権を倒すようなレベルで広がったと以前聞いた気もするが、なんかこう、チャットアプリを軍事行動に使うというのは微妙に違和感を感じる。
それなりに機密保護機能は高そうだから、携帯やタブレットを奪われない限り情報漏洩のリスクは低そうではあるが。
と言うか、軍事行動にはわらわらと意見交換するようなのんびりした情報交換はそぐわない気がする。
上意下達じゃないとダメだろうし。
「まあ、色々とこちらの世界とは違った方向に技術が進んでいたな。
その代わり魔術やスキルで出来ることの再現が不可能だったものもあったし。
それこそ、普通の回復薬で浅い切り傷をちゃちゃっと治す事ですら不可能だったから、方向性の違いだな」
両方の技術を取り入れられたら便利だろうが・・・無理なのだろう。
と言うか、もしかしたらレティアーナ女史の故郷である魔法文明なんかはそれに近かったのかも?
宇宙に出れるほど文明が進んでいたのだ。
チャットアプリ的な技術もあっただろう。
「ふうん。
回復薬が無いのは不便そうだな」
インクを塗りたくったコボルトの口に紙を差し込み、ぎゅっとそれを閉めて歯形を取りながらデヴリンがコメントする。
「ある意味、ちょっとした切り傷よりも口内炎とか虫歯をそこら辺の回復師に治してもらえないのが一番マイナスかも?
あっちでは虫歯になったら歯を削って最終的には抜くしか治療法が無かったからな」
抜いた歯を補うために義歯のインプラントが出来るようになったが、あれだって自前の歯よりは問題があるのだろう、多分。
それはさておき。
歯形を取るのに時間が掛かる為、3日かけてやっと13階のコボルトを殺し終わったのだが、今迄の歯形を確認したところ群れの間でも個体のダブりはあり、大体プロトタイプは20体程度な感じだった。
今日の検体確認でその数が増えるかも知れないが、取り敢えずこのプロトタイプが他の迷宮でも共有されているか、興味がある。
デヴリンをせっついて、早く他の迷宮にちょっと遠征できるように話を付けて貰わなければ。
『王都迷宮だけで無く他でもコボルトの虐殺が?!』




