1116.実戦っぽく(42)
「今日は歯形を取る際に、最初に襲ってきた方か後から来た方かの順番っぽいのも紙の端に書いておいてくれないか?
どうせどのコボルトがどんな風に襲って来たか、見ているだろ?」
翌日、隆一はデヴリンにインクと筆に追加してペンを渡しながら頼んだ。
「個体ごとに役割か性格の違いがあるのか、確認するつもりか?」
道具を受け取りながらデヴリンが尋ねる。
「ああ。
まあ、集団が違うと個体の行動も変わると言うが、最初に襲ってくるタイプが常に同じかぐらいは確認できるだろう」
13階のコボルトはどれも棍棒を振りまわすだけだが、実は前衛タイプと後衛タイプみたいな、違いがあってもおかしくない。
まあ、特攻してくるのが前衛タイプで遅れて後から渋々走って来るのが後衛に向いているとも限らないが、同じ個体だったら似たような行動をするのかは興味がある。
「ふむ。
22階まで行けば、剣と槍と矢を使うオークソルジャーが群れで出るようになるから、同じ個体が同じ武器を使うのかも確認できるならしてみたいところだな」
ダルディールが口を挟む。
群れな上に遠距離と近接武器を使う集団と戦うなんてかなり厳しそうだが・・・そこまで行ったらダルディールとデヴリンにもある程度手伝ってもらわないと隆一が一人で戦うのは無理そうだ。
「ちなみに・・・ペルワッツにもコボルトって出るのか?」
気になっていたことをついでに尋ねる。
「勿論。
基本的にヴァサール王国の中型以上の迷宮では常にコボルトが出るぞ」
デヴリンが頷いた。
「この13階のを倒しまくって、ついでにリポップしたのも倒しまくって個体の原型がいくつあるのか確認できたら他の迷宮のコボルトも同じように確認したいんだが・・・俺が迷宮に遠出出来るよう、フリオスにでも話しておいてくれないか?」
そろそろ気分転換にちょっと遠出しても良いだろう。
偶には想定外な場所に出没する方が狙われにくいかも知れないし。
「あ~・・・。
まあ、伝えておくよ。
それなりに嫌がると思うが」
デヴリンが微妙な顔をしつつ応じた。
「依頼を出せば、コボルトを倒して歯形を取ってこいって言うのも可能だと思うぞ?」
ダルディールがちょっと気遣うように言った。
「興味があるのは勿論だが、せめてヴァサール王国内程度だったらもう少し動き回れる自由が欲しいんでね。
ちょっと我儘を言わせてもらう。
国外旅行は遠慮しているんだ。その位、妥協してもらいたいところだな」
要求しなければ死ぬまで王都に押し込まれたままだ。
軟禁や薬で命だけある状態にされる様な隷属状態の危険を冒してまで例え異世界であろうと海外旅行に行きたいとは思わないが、国内程度だったらもう少し出歩いても大丈夫だと思いたい。
と言うか、ある意味小型な飛行具が出回ったら人間の移動の自由度がぐっと上がるのだ。
隆一が自由に動き回れるようになるというのもあるが、誘拐犯も自由に遠距離を移動できるようになるのだ。
そうなれば受け身に王都へ引きこもっているのが絶対的に安全とは言えなくなるだろう。
ならば多少は人生を楽しませてもらいたい。
デヴリンが微妙な顔をしつつため息を吐いた。
「まあ、気持ちは分からんでもないが・・・他の迷宮はまだしも、ペルワッツは止めてくれと泣きつかれるかもだぞ?
未攻略な迷宮の場合はイレギュラーが起きる可能性が高い上に、その変動幅も大きいからコボルトが出るような階層でも俺たちで守り切れない可能性がある」
「そう言えば、攻略済みで魔物のラインアップを指定した迷宮でもイレギュラーって起きるのか?」
想定外な強さの亜種や通常出るのとは違う魔物が出現するイレギュラーは迷宮での探索者の死因のトップ3に入るという話を聞いたが、今迄王都迷宮ではそんな亜種や妙に強い魔物を見た記憶が無い。
「魔物のラインアップ指定というのは通常時にリポップしてくる魔物の種類と強さを定めているんだ。
通常の頻度で魔物が間引かれなくて、リポップではなく迷宮内における魔素の圧力が高まって勝手にポップした場合なんかは亜種や他の標準からずれた強さの魔物が出て来ることがある。
まあ、王都迷宮みたいに探索者が大量に入っている迷宮ではまず起きないが」
ダルディールが隆一に説明した。
なる程。
ちゃんと探索者が入って魔物を間引いていないと魔素の濃度が高まりすぎてリポップのシステムが誤作動するのか。
「そんでもって未攻略とか魔物のラインアップを指定していない迷宮だと?」
「ダンジョンマスターが居る迷宮だったら気分次第で魔物の変更って言うこともあり得るし、居ない迷宮でも突然変わることがあるな」
デヴリンが応じる。
ペルワッツだとダンジョンマスターが気まぐれで魔物のラインアップを変える可能性があるなら、確かに隆一が行くのは嫌がられそうだ。
取り敢えず、他の迷宮のコボルトの情報を集めてから、考えようと決めた隆一だった。
こうして研究の名の下に、コボルトの大量虐殺が決まったのだった・・・




