1112.実戦っぽく(38)
あまり何も考えていなさそうな迷宮産の魔物でも個体差があるのか、コボルトの群れが襲い掛かってきた際にも先走るのと後ろの方から遅れ気味についてくるのとがいた。中々興味深い。
一つの『コボルト』という個体を群れの数だけ複製しているのではなく、どこかの群れの個体全部をコピーしている形なのだろうか?
魔物にDNAと言う物があるのだったら、倒した群れの個体全部のDNAを調べて違いがあるのかを確認してみたいと思った隆一だった。
とは言え。
DNAを確認できるような道具は無いし、幾ら隆一が医療特化な錬金術師とは言ってもDNAの詳細が見えるような鑑定スキルは無い。
「・・・歯形ぐらいなら比べられるか?」
ふと、人間の個人認証(と言うか遺体判別?)に使われることもある歯形を取ってどのくらい違いがあるかを見てみるのもありかも知れないと思いつつ、魔力を練りながら近づいてくるコボルト達の位置と速度を確認し、隆一はクロスボウを持ち上げた。
「はがた??」
斜め後ろで待機しているダルディールが聞き返す。
「いや、終わってからでいい話なんで、後でな」
先頭2体にボーラを放ちながら応じる。
足止め用魔道具の縄が右のコボルトに当たり、隣のと一緒に縄に絡め取られ始めたのを横目に次の3体に向けてボーラを放つ。
「うっし!」
3体もが良い感じに絡み合って倒れた。
ちゃんと足止め用魔道具が起動したか、どこで拘束したかは微妙に不明だが、地面に倒れ込んでから起き上がれていない。
更に後ろの2体にボーラを放つが・・・こちらは左の方のに避けられてしまったせいで一体だけしか拘束できなかった。
「氷矢!」
ボーラを避けて棍棒を振り上げながら近づいてきたコボルトに攻撃魔術を叩き込み、残りの3体のうち、比較的近い2体に向かってボーラを放ち、最後の一体に向けて攻撃魔術を使おうと魔力を練る。
「げ」
2体の方の一体が先に拘束した仲間に躓き、転び、ボーラの縄の範囲から外れた。
「ち!」
もう一度ボーラを放ち、後ろから来る最後のコボルトを狙う。
「氷矢!」
バタバタした戦いの一瞬が終わり、取り敢えず立っているのが隆一達三人だけになった。
「意外と何とかなったじゃないか」
ごろごろと転がるコボルト達を見ながらデヴリンが手を叩いて隆一を褒めた。
「なんかこう、かなり一杯一杯な感じで全然余裕は感じなかったけどな」
いざとなればダルディールが守ってくれると分かっていたし、デヴリンが居れば自分が死ぬことは無いと分かっているのでパニックにはならなかったが、それでもどんどん詰め寄られると慌ててしまう。
散弾銃のような範囲攻撃的足止め用魔道具もしくは攻撃手段を開発した方が良いのかも知れない。
とは言え、26階で隆一が慌てて戦わなければならないようなヤバい事になるとしたら乱戦状態になっている可能性が高く、そうなると散弾銃的な道具ではフレンドリーファイアで味方の足を引っ張りそうな気もする。
「もっと慣れたらもう少し落ち着いて対処できるようになるのかな?」
溜め息を吐きながら隆一が聞いた。
「まあ、慣れる人間は慣れるし、駄目な人間はダメなままって言うこともあるが、訓練すればある程度は良くなる事が多い。頑張るんだな」
デヴリンが肩を竦めながら言った。
かなりおざなりな助言だが・・・隆一の才能では地道に鍛錬してある程度練度を上げるしか道はないのだろう。
溜め息を吐きながら一番前に転がるコボルトに近づき、2体ともナイフで心臓を貫いて止めを刺してから口を開けて中を見比べる。
「どうした?」
デヴリンが後ろから覗き込みながら尋ねる。
「迷宮の魔物って食わないし繁殖しないし決まった場所から動かないしで、あまり個性が無いだろ?
個体差がない生きた人形みたいなものなのかと思っていたが、走って来る時にそれなりに動きに違いがあったから違う個体なのか、ちょっと確認してみたいと思ってね。
歯並びが個々で違うのかを確認して、違う様だったら歯形でも取ってリポップした個体が同じなのかとか、確認したら面白いかと思ってな」
最初の2体に関しては、微妙に歯並びも違う・・・ように見えた。
特に歯に関して知見がある訳ではないので詳しくないからはっきりとは言えないが・・・歯の形に多少なりとも違いがある気がする。
「ふむ。
リポップした魔物が前のと同じか否かって言うのはちょっと興味がある話だな。
歯形でそれが分かるのか?」
デヴリンが尋ねる。
「最下層の方なんかは経験を蓄積していくって言っていたからそう言った経験はリポップの際に消えてやり直しになるかも知れないが、個体自体も新しい別の個体になるのか、それとも肉体は前のと同じなのかは興味があるところだろ?
記憶や経験はまだしも、肉体に関しては歯形が完全に一致していたら同じ個体だったと言えるんじゃないかな」
とは言え、今回は歯形を取れるような道具は持ってきていないが。
次回に何か良さげな紙とインクと筆でも持って来て、歯に色を付けて紙を噛ませることで簡単な歯形でも取ってみよう。
「はい、大きく口を開けて〜」




