1111.実戦っぽく(37)
「昨日のばーべきゅーは美味しかった、ごちそうさま」
バーベキューの翌朝に迷宮前で会ったデヴリンに隆一は再度お礼を言われた。
昨日は荷物が多かったしたっぷり食べて気分もまったりだったので、そのまま一行は探索せずに帰った。
ある意味、探索しないのにバーベキューのお守りの為だけに呼び出されたデヴリンとダルディールにとってはいい迷惑という考え方もあるが、取り敢えず1回だったら美味しいという事で喜ばれたようだ。
「いや、こっちの人にもそれなりに美味しいと喜んでもらえると分かって良かったよ。
やっぱイマイチお茶会やら晩餐会で人を呼ぶのは気が進まないんでな。
もっとカジュアルに近所付き合いが出来そうな目途が立って、良かったよ」
隆一が答える。
別に何か食べさせなければ人と付き合えないという訳ではないのだが、特に会う理由が無い場合、食事やお茶に招くというのがこちらの世界風の初対面の出会い方だと隆一は言われた。
まあ、自分の家に呼ばなくても他者のパーティや晩餐会で出会うのでもOKなのだが、そんなものに呼ばれたくもないし呼ばれるために王宮や商業ギルドに借りを作るのも嫌な隆一としては、近所付き合いに最初のステップで躓いていた。
特に興味が無かったので気にもしていなかったが。
だが、チ〇ールもどきを試すために知り合いの輪を広げなければならなくなったので、最初の一歩として近所の隣人との付き合いを始めようとなったのだ。
それを庭だけでカジュアルに行えるバーベキューで済ませられそうなのは有り難い発見だった。
それはさておき。
「で、今日は13階でコボルトかホブゴブリンと戦うんだろ?
どうやるつもりなんだ?」
デヴリンが尋ねる。
「まずは先にメロンと桃とオレンジを採取してから、コボルトのテリトリーに入ってボーラ型足止め用魔道具がどの程度集団戦に使えるか、実験だな」
隆一が答えた。
13階の群れは10体前後なので、クロスボウに装填出来る足止め用魔道具の数を12個まで増やした。
かなりギリギリになったが、これで空振りが無ければ全部止められる可能性が高い。
ボーラの縄の長さがそれなりにあるので、コボルトが纏まっていたら2、3体一緒に纏めて拘束できるかも知れないと隆一は期待していた。
まあ、下手をすると集団になっているせいで上手く縄が巻き付かなくて足止めその物が出来なくなる可能性もあるが。
「先に果物採取なのか?」
デヴリンがちょっと眉を上げて尋ねる。
「戦った後で血生臭い状態で果物に触りたくないからな。
手を洗っても腕とか頭とかに多少の血とかが付いている可能性はあるだろ?
久しぶりだからしっかり採取したいし」
ちゃんとフルーツ用の大箱も持って来てあるので、リヤカーに積み込める筈。
「まあ、良いんだが。
取り敢えず、どのぐらいまでコボルトが接近したら俺が倒した方が良いんだ?
それとも今回は命にかかわらなければ2、3回攻撃を食らうのは想定内なのか?」
デヴリンが肩を竦めながら聞く。
「素手で殴られる程度なら良いが、流石に想定外に痛い目に遭うのは嫌だからダルディールに後ろに居て貰って盾でナイフや棍棒は遮って貰いたいと思っている」
コボルトやホブゴブリン程度の攻撃だったら1、2発喰らっても今の隆一だったら命に関わることは無い筈だが、武器があると想定外なアクシデントというのは起きかねない。
自分で治せるはずだし回復薬も持って来てあるが、リスクは取りすぎない方が良いだろう。
願わくは、自力で群れを一つぐらいなら倒せると良いのだが。
数で押してくるタイプの魔物にある程度抵抗できなければ、戦いが長引いた時に周囲からどんどん魔物が集まってきかねない26階に行くのはやはり無謀だろう。
まあ、13階のコボルトやホブゴブリンを26階の魔物と同等に考えること自体が無謀だが、現時点である程度対処できるなら、26階に辿り着くまでにさらに対処能力が上がって26階の魔物相手でもデヴリンかダルディールがヘルプに入れるまでの短時間なら生き残れると思いたい隆一だった。
「まあ、取り敢えずやってみようぜ。
あまりにもヤバそうだったら要相談ということで」
デヴリンが軽く応じた。
13階程度だったらデヴリンなら片手間で全部一掃出来てしまうのだから、臨機応変にやれば良いと思っていそうだ。
臨機応変。
色々と意味深な言葉ですよねw




